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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






ピピッと軽い音を鳴らした体温計を見ればもうすっかり熱は引いていた。


ゆっくりとベッドから起き上がりふぅと息を吐く。


慣れない保健室の真っ白なベッドの上。


縁に腰掛けてサンダルを引っ掛ける。


「あら、もういいんですか?もう少し休んでいけばいいのに」

「いえ、もう大丈夫です。すみません、お世話かけました」


ぺこっとお辞儀をして立ち上がると少しだけクラッとしたけど。


もうこれ以上他の先生に迷惑かける訳にはいかないし。


…それに、そろそろ行かないと相葉くんのリレーも見れなくなっちゃう。


穏やかに微笑む先生に挨拶をして保健室を出た。


廊下をぺたぺたと歩きながらまたはぁと息を溢す。


…体育祭の初っ端に体調崩すなんてほんと情けない。


朝起きた時ちょっとだけ違和感があったんだけど大丈夫かなって思ってた。


そしたら開会式でずっと外に立ってたら気分が悪くなって。


普段からそんなに外に出ないからきっと体がついていかなかったんだ。


しかも元々体調も万全じゃない日に限ってこんなことになっちゃって…


ポロシャツの袖から伸びる抑揚のない真っ白な自分の腕を眺める。


…やっぱもっと外に出なきゃだめかぁ。


ぽつりそんなことを思ってふと窓の外に目を遣った時。



…え?


飛び込んできたその光景に自分の目を疑った。


誰も居るはずのない校舎のトイレで。


相葉くんと…


知念、くん…?


なんで?


心臓がどくどくと早まりぎゅっと締め付けられる。


と同時にふつふつと込み上げてくる感情。


ちょっと待ってよ…


もうしないって言ったのにっ…!


自分でも驚くほど簡単に湧き上がってきた嫉妬の熱に押されるまま、気付けば鍵を開けてガラッと窓を開け放っていた。


「あ、相葉先生っ…!」


真下に向かってそう叫べば、弾かれたようにこちらを見上げた驚いた相葉くんの顔。


けれど知念くんからはちっとも離れようとしない様子にまた口を開こうとした時。


「良かった…にのちゃん!ちょっと来て!」

「……はっ?なに…」

「いいから早く!」


真っ直ぐに届いた相葉くんの真剣な声。
その只ならぬ雰囲気に湧き上がっていたモヤモヤは消えてしまって。


窓を閉めると普段は走ってはいけない廊下を急いで駆け抜けた。

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