
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
額の汗を拭いながらキョロキョロと周りに目を配る。
グラウンドからは少し離れた校舎と校舎の間。
遠くで歓声や招集のアナウンスが微かに響き渡って。
がむしゃらに走ってきたはいいものの、案の定どこに居るか全く見当がつかない。
にのちゃんが行きそうな所だけを探しても埒が明かないから。
というか、何か事件に巻き込まれてたら場所なんて絞れる訳がない。
そう思ってこんな誰も寄りつかないような場所にも来てみたけど。
さすがにここはないか…
はぁと溜息を吐いてまた走り出そうとした時。
ガタンと僅かに聞こえてきた音。
ん…?
その音の根源へそっと近付く。
…トイレ?
この校舎の一階の端にある外に面したトイレは、普段はほぼ誰も使っていない。
昔から、俺が高校の頃からトイレの水が流れなくて未だにそのまま放置されている。
ましてやこんな体育祭の日にわざわざここを使うヤツなんか絶対いないはず。
恐る恐るそこへ近付くとまたガタンと今度は大きな音がして。
そしてそれに重なるように。
「やだっ…」
っ…!
か細くもハッキリと聞こえた人の声、しかもただ事ではないその声色。
ちょっ、にのちゃんっ…!?
瞬時にカッと血が上って勢い良く入口の扉を開ければ、そこに居た人物に目を見開いた。
「っ、知念っ…!?おいお前らっ!」
二人がかりで壁に押し付けられていたのは紛れもなく知念くんで。
中途半端に捲られた体操服と、転がった片方の運動靴。
飛び込んできた光景にそれ以上言葉が見つからず知念くんを見れば。
俺と目が合った途端、ぽろぽろと涙を溢して地面にずるっと力無く座り込んだ。
「やっべ…おい!こっち!」
「…おい待てお前らっ!ちょっ…顔っ!顔覚えたからなっ!」
こんな状態の知念くんを置いていく訳にはいかず。
逃げ出したヤツらの顔を目に焼き付けて知念くんに近付き、その小さな肩を抱いた。
「どうした?何があった?大丈夫…?」
「うぅ…せんせぇ…」
かたかたと震えながらぎゅっと抱き着いてきた腕を拒むことなんて出来ずに。
落ち着くまでしばらく黙って背中を摩り続けていた。
