
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
翔ちゃんに目配せすると"ごめん"って顔を向けられた。
あっぶね…
知念くんのことは勿論大ちゃんには言ってないんだからさ。
それに…
こないだまた相談された時、知念くんは俺にこう言ったんだ。
"今度の体育祭が終わったら大野先生に想いを伝えようと思います"と。
だから自分で真っ直ぐに想いを伝えるまで、このことは誰にも邪魔できない。
知念くんの想いは、俺は勿論のこと他の誰にも否定することなんか出来ないから。
"がんばれ"ってそっと背中を押してあげた。
俺に出来ることはそれぐらいしかないけど…
「なんだお前ら…俺になんか隠してんだろ」
「隠してない隠してない!ね?翔ちゃん!」
「んなことあるわけねぇじゃん!俺らと大野の仲だろっ」
すかさず大ちゃんの肩をガシっと組む翔ちゃん。
いやそれちょっとわざとらし…
「…翔?何してんの?」
ぬっと背後から現れて大ちゃんごと翔ちゃんの肩をガシっと組んできたのは松潤で。
「ひっ…」
「遅かったね。起きらんなかった?もしかして昨日の、」
「だぁぁぁぁっ!」
いきなり慌てだした翔ちゃんは振り返って松潤の口を両手で塞ぐ。
もごもごする松潤をよそに、その先のセリフは大体予測されたからニヤニヤした視線をとりあえず送っておいた。
なんだよ…
こっちはにのちゃんロスだったっつーのに…
…あっ!
つーかにのちゃんは!?
見失ってからはそこそこ時間が経っている。
トイレにしては余りにも長すぎだと思うし…
ふいにあの日図書室で生徒が話していたことが脳裏を過ぎった。
"にのみーだったら押したらイケそうな気ぃすんだよな"
"お前まさか襲うつもりかよ!?"
っ…まさか、にのちゃん…
一気に胸騒ぎがして居ても立っても居られなくなり。
「大野先生、ちょっと二宮先生探してきますっ!」
すぐに身を翻して駆けて行こうとした背中に何か言われた気がしたけど。
今は聞き返す余裕なんてない。
とにかくにのちゃんを見つけなきゃ安心できない。
見当なんて全然つかないけど。
周囲に目を遣りつつ、声援が飛び交う応援席の後ろを人の波を掻き分けて走った。
