
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
梅雨入り寸前の最後の土曜日。
天気は見事なほどの快晴。
いよいよ体育祭当日となった今日、大ちゃんの呪縛からようやく解き放たれることとなる。
にのちゃんから大ちゃんへ担当が変わってからというもの、完全にマークされた状態の俺は大人しくするしか方法はなく。
しかも『しばらく家にも行くんじゃねぇぞ。お前メリハリつけんの下手だから』と大きめの釘を刺されたもんだから素直に従っていた。
くっそ…
やっぱ大ちゃんは俺のこと何でも分かってるよな。
おかげであれ以上にのちゃんとの噂に変な尾ビレも付いてないみたいだし。
あんな言い合いしたって結果的に大ちゃんには感謝するハメになるんだ。
…なんだかんだでやっぱ敵わねぇや。
いつものように職員用玄関に足を踏み入れると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえて。
振り返ればリュックを背負って走りにくそうに駆けてくるにのちゃんが。
いつものシャツとスラックスじゃなく見慣れないジャージ姿に朝からきゅんとしてしまって。
にのちゃんて何着てもかわい…
「おはようございます」
「あ、おはようございますっ!」
リュックのショルダーベルトを握り笑顔で挨拶されて思わず倍くらいの声で返してしまう。
「ふふっ、気合い入ってますね」
「いやもちろん!だって体育祭ですから!」
靴を脱ぎながらこちらに視線を向け微笑んでくれるにのちゃん。
あぁやっと…
今日から普通に一緒に居られるんだぁ…
そう思うと妙に感慨深くて無意味にジッと見つめてしまって。
俺の眼差しに気付いたにのちゃんが"うん?"と顔を覗き込んでくる。
「…え、緊張してます?」
「ち、ちがっ…してないっすよ!」
「んふふ…リレーも頑張ってくださいね」
そう言って笑いながらエールを送られ。
「はい!めちゃくちゃ走るんで!見ててください!」
「ふふっ、ちゃんと見ときます」
"その前に用具係もですよ"と言いながら職員室へ向かうにのちゃんを追いかけて隣に並んだ。
こうして並んで歩くのも久し振りな気がする。
こんな些細なことにも幸せを感じられるなんて。
離れ離れになってた織姫と彦星が再会できたみたいな感動。
…っていうのはちょっと大げさか。
「おっはようございまーす」
