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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






地団駄を踏む加藤先生に内心申し訳なさが募る。


俺たちのせいで大野先生と担当が変わったなんて…
口が裂けても言えない。


「まぁでもいっか、もうすぐアタックするしっ」

「…え?」


パッと表情を変えてふふっと溢した笑みを日誌で隠しながらそう発して。


アタックって…


「この間二宮先生に聞いてもらってやっぱり再確認したんです。僕の気持ち」

「……気持ち」

「はい。僕アタックしてみます、今度の体育祭が終わったら」


大きな瞳を一段と輝かせて話す口調は、どこか自信に満ち溢れていて。


それは、結果どうこうと言うよりも自分の気持ちを真っ直ぐ伝えたいっていう加藤先生の直向きな想いのように感じた。


「…そう、なんですか」

「ふふ、上手くいくと思いますぅ?」


きゃっきゃっと照れ臭そうに話す加藤先生に自然と笑みが溢れる。


こんなに楽しそうに話されるとなんだか応援したくなっちゃう。


「あっ、そうだ!もう明後日じゃないですかぁ、体育祭」

「え、あ、はい」

「僕ぅ、教員参加のリレー出なきゃなんなくてぇ」

「あぁ、リレー…」


うちの体育祭は毎年エキシビジョンみたいな教員参加の種目がある。


その年で何をやるかは体育科が決めるんだけど、今年はリレーになったんだっけ。


そしてこの時期に教育実習に来る学生は有無を言わさず種目にエントリーされるって訳で。


えっ、てことは…


「でぇ、僕ぅ相葉先生にバトン渡すことになっちゃってぇ!失敗しないかもう今からドキドキ~」


きゃははと笑いながら胸を押さえる仕草。


そんな加藤先生を見つめつつ、頭の中で勝手にイメージを膨らませた。


風を切りトラックを颯爽と駆け抜ける相葉くんの姿。


声援を浴びながらぐんぐん抜いていって一番先にゴールテープを切る。


そしてその足で俺のとこまで来て『にのちゃん!一番だったよ!』って。


俺も『良かったね、頑張ったね』って笑顔で返して。


そしたら相葉くんが『一番になったからご褒美くれる?』とか言って俺のことぎゅうって抱き締めてそれで…


「二宮先生ぇ?」

「っ、へいっ!」


トリップしてたらいきなり加藤先生に呼ばれて返事がおかしくなってしまい。


"へいっ!てお寿司屋さんじゃないんですからぁ~"と笑われてひたすら赤面していた。

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