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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






そのまま二人、息を潜めて耳を傾けていると。


『でも俺マジでにのみーちょっといいなって思ってたんだよな』

『え、マジ?』

『え、だってうちの学校でダントツ可愛くね?』

『いや女子いねぇからな』

『ちげーよ、そうじゃなくても可愛いっつってんの』


まさか男子高校生の恋バナの中心が自分だなんて思ってもみなくて。


何とも言えないむず痒さと違和感に首を捻れば、視界に入ってきた相葉くんの顔があからさまに曇っていた。


…あ。


『だからさぁ、なんかどうにかなんねぇかな~って』

『は?どうにかってなんだよ』

『ん~…なんかにのみーだったら押したらイケそうな気ぃすんだよな』

『はっ?お前まさか襲うつもりかよ!?』


一段と大きくなった生徒の声にすかさず反応したのは他でもない相葉くんで。


立ち上がろうとしたのをすんでの所でその腕を押さえる。


いや襲うってなに…!?


そんなこと…


『そんなんじゃねぇよ!いやでもそうでもしねぇと無理かー』

『いやそんなのヤバくね?つか相葉ちゃんが黙ってねぇよきっと』

『あぁ…でも相葉ちゃんには俺勝てそうな気ぃするわ』


笑いながらそう言い放ったと同時にガタっと立ち上がった相葉くん。


…ばかばか!
出てっちゃだめだってば!


慌てて俺も立ち上がり、ぎゅっと抱き着いて力の入った体を制する。


見上げた相葉くんの顔は珍しく本気で怒っていて。


「…ふざけんなよ」


ポツリ呟いた声も怒りで震えていて、宥めようと背中をぽんぽんと軽く撫でた。


『え、今なんか音しなかった?』

『え?したっけ?』


するとさっきの立ち上がった椅子の音に気付かれたのか、俺たちの居る奥のスペースを怪しみだして。


"ちょっと見てくる"と言いながらこちらへ向かってくる足音が近くなり。


えっ、どうしよっ…


また相葉くんを見上げれば『来るなら来い』とでも言うように俺をぎゅっと抱き締めたまま微動だにしなくて。


離れようともがいても今の相葉くんの前では全く敵わない。


もう数列先の書架まで近付いてきていて、どうにもできないと思ったその時。


「おい、お前ら下校時間過ぎてるぞ」


ガラッと開けられた音と同時に聞き慣れた声が聞こえた。

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