テキストサイズ

原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






急に畏まった俺に気付いたその瞳が不思議そうに瞬きをする。


…もうこれは相葉くんに相談するしかない。


意を決して口を開いた時、膝に握っていた拳に大きな手がぽんと乗っかって。


「…まだ気にしてるの?大丈夫だよ、ただの相談だったから」

「っ…」


優しく微笑みながらそう言うと、置いていた手を両手でぎゅっと包まれた。


俺が不安がっていると思ったのか、尚もニコニコして見つめてくる優しい瞳。


そんな気遣いにいちいちキュンとしてしまう。


…現にちょっと妬いてたし。


いや、じゃなくて!
違う違う、俺のことじゃなくて加藤先生のこと!


「…別に気にしてないですよ。思ったより早かったなって思ったくらいだし」

「くふ、ほんとー?ここ来る時すっげー早足で行ってたじゃん」

「っ、そんなことないし!…普通です、あれが」


反論しても依然笑いながら顔を覗き込んできて。


ちゃんと話したいのに完全に相葉くんのペース。



最近特にこういうことが多くなった気がする。


なんていうか…
うまく丸め込まれてるような感じ。


俺の考えてることなんかすっかりお見通しで全部を受け止めてくれているような。


これは相葉くんの成長なのか、単なる俺が子どもなだけなのか。


…嬉しいような、悔しいような。



「さぁてと、資料作りしますか!」


腑に落ちない顔の俺をよそに、閉じられた資料集を手に取ってパラパラと捲り出す相葉くん。


その横顔はもう一端の教員のように頼もしくも見えて。


俺だけが一人で不安になったりヤキモチ妬いたりして、ほんと相葉くんの方がよっぽど大人だよ。


また言いたいことも言えなかったし…


はぁと小さく吐いた溜息は案の定隣にも聞こえてしまったようで。


"にのちゃん?"と投げかけられても敢えて応えずにノートを開こうとすると。


「二宮先生」


はっきりそう呼ばれ少し目を上げたら急に近付いてきた顔。


っ…!


下から唇を掬われたかと思えばすぐにその温もりは離れていって。


なっ…


「…くふ、機嫌直った?」


至近距離で口角を上げて窺ってくるいたずらっぽい瞳に不覚にもまた顔が熱くなってしまい。


「な、何するんですかっ、ここ学校ですよ!」

「え~先生だってここツンってしてきたじゃないですかぁ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ