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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






図書室の一番奥のスペース。


いつもの定位置に資料やノートを広げ、ふぅと息を吐く。


トントンとペン先を付けつつ、抑えようと思っていてもざわつき始める胸を誤魔化すことは出来ない。



相葉くんに相談してたのはE組の知念侑李だったんだ…


あの時は遠くてよく認識出来なかったけど、小柄で可愛らしい印象なのは確かだった。


いや、大丈夫だってば。


もうこないだの理由だって聞いたじゃん。


きっとまた大野先生のことで相談したいだけだって。



頭ではそう分かっていても体は無意識に反応していたようで。


ゆすゆすと小刻みにかかとを動かしているのに気付いて、また大きな溜息を吐く。


このモヤモヤの原因は他にもう一つ。


大野先生に想いを寄せているのは知念くんだけじゃないんだ。


相葉くんに知念くんのことを告げられた時、瞬時に脳裏を過ぎったのは加藤先生の顔。


…どうやら加藤先生も大野先生のことが好きみたいで。


全然纏まっていないノートに腕を組み顔を突っ伏した。



"大野先生のことについて教えてください"って言われたけど。


急にそんな相談されて正直どう答えていいか分かんなかったし。


あの時はほとんど加藤先生が大野先生への想いをぶちまけただけに終わったから。


でも…加藤先生の想いが本物だってことだけは分かった。


本物なだけに俺もどうしたらいいか分かんなくて。


本当は俺も相葉くんとのことを打ち明けて真摯に相談に乗るべきだったのかもしれない。


でもそれは俺だけで決めることは出来ないなって思ったし。


…"俺たち"のことだから。


やっぱり、加藤先生のこと相葉くんに相談してみよっかなぁ…



突っ伏した顔をくるりと横に向けた時、背後にふと気配がして。


そう思ったが早いか、覆い被さるように圧し掛かってきた重みに驚いて思わず声が出た。


「くふふっ、お待たせぇ」

「っ、もう!びっくりしたぁ…」


耳元で楽しそうに笑う相葉くんの温もりにすぐ舞い上がってしまう単純すぎる俺。


思ったより早く来てくれたことにさっきまでのざわつきはもう消えていて。


ニコニコしながら隣の椅子を引いて座る姿を見つめてから、開いたばかりだった資料集をぱたんと閉じて相葉くんに向き直った。

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