
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
大ちゃんに釘を刺されてからは、学校では極力にのちゃんと親しくするのは控えようと心掛けたはいいものの。
毎日のように一緒に行動する俺たち。
全く関わらないなんてことは無理な話で。
「二宮せんせー相葉せんせーさよならっ」
3年生の教室の廊下を二人で歩いていると口々に挨拶をしてくる生徒。
通り過ぎ様に垣間見る顔のどれもがどこかニヤニヤしていて。
やっぱり完全に怪しまれてんだな…
チラリ横目で隣のにのちゃんを見遣る。
そんな生徒たちを気にする様子もなく挨拶に応える可愛い横顔。
つーか…別にいいじゃん。
俺だってもう卒業してるし、成人だってしてる。
今は教育実習の身でここに居るってだけで、それが誰かに迷惑を掛けることなの?
にのちゃんと少しでも親しく喋ったりすると一部の奴らに好奇の目で見られたりして。
今みたいにあからさまにニヤニヤされてさ…
大ちゃんの言ってくれたことももちろん分かるけど。
こうも周りの目を気にして自分を出せないなんて、すっげーストレス溜まんだけど。
…俺がにのちゃんと付き合ってんのがそんなに悪いことなのかよ。
「相葉先生…?」
小さく呼び掛けられた声に我に返り隣を振り向けば。
窺うように覗き込んでくる薄茶色の瞳とぶつかって。
「…すごい顔。どうしました?」
俺の眉間をちょんと突いて訊ねてくるにのちゃんは、意外にもこういうことを平気でよくしてくる。
気をつけるって言っておきながら俺と居るとどうしても素に近くなってしまうみたいで。
「っ、何でもない…」
「ふふ、ほんと?」
「うん、てか誰かに見られ…」
きょろきょろと周りを見回して誰も居ないことにホッと安堵した時、E組のドアがガラッと開いて一人の生徒が顔を覗かせた。
「ぁ…相葉先生っ…」
待ち構えたように出てきたのは知念くんで。
「あの、すみません…ちょっと今お話できますか…?」
「え、今から?えっとぉ…」
「どうぞ、相葉先生。私は先に資料まとめてますから」
食い気味にそう告げたにのちゃんは、さっきの甘い雰囲気をまるで消して一息に言い終えて。
「あっ、先生…」
俯きながらペタペタと図書室へ歩いていく後ろ姿に、それ以上声を掛ける事が出来なかった。
