
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
小さく"うん"と言ってまた微かに頷いたにのちゃんのほっぺた。
質感の良いそこからジンと熱が伝わってくる。
…あ、そうだ。
後ろから抱き締める腕を緩めずに、にのちゃんには言っておかないといけないことを思い出した。
「ねぇにのちゃん、こないだのことなんだけどさ…」
そう溢せばぴくりと反応した体。
こうやって今までみたいに戻れはしたけど、きっとあの事はにのちゃんの中で完全に消化されてはいないはずだから。
「あのね…大ちゃんの話をした後って訳じゃないんだけどね。実はさ、あの生徒…大ちゃんのことが好きなんだって」
静かにそう告げれば"え?"と言って顔だけこちらに振り向いた。
その瞳は泳ぐようにゆらゆらと揺れて。
「でさ…あの子も結局昔の俺と同じ立場じゃん。先生に恋してるっていう…だから俺に相談してきたの」
「…そう」
一瞬ふっと伏せられた瞳がまたこちらを見上げ。
「…でも、なんであんなことになってたの?」
「え?」
「頭撫でたり…」
「あっ…」
そう伝えてくる表情はやっぱり不安で曇っていて。
あの時の俺に疚しい気持ちなんて微塵も無かったとしても、揺れる瞳を見てしまうと後悔ばかりが募ってくる。
その瞳を真っ直ぐに見つめて正直に全てを話すと。
眉間に小さく皺を寄せた後、また伏せて見えなくなってしまった瞳の色。
そしてゆっくりと体を向き直してぽすんと預けてきたおでこ。
「…分かった。でも…もうしないで」
「っ…」
小さな声でそう呟きぎゅっと抱き着いてくる仕草に心底堪らなくなって。
それに応えるように無言のまま擦り寄る体を優しく抱き締める。
「ごめん…もう絶対あんなことしないし、ほんとに何もないからっ…」
「分かってる、分かってるけど…」
"でも…"と付け足してそっと上げた瞳は予想通り水分が多くなっていた。
あ、ヤバい泣いちゃう…
そう思い、背中に回していた腕を解いてほっぺたをそっと包み込むと。
「…やきもちぐらい妬かせてよ」
ぐっと堪えるように瞳に力を宿して放った言葉。
予想外のその発言にこの場にふさわしくないと思いつつも吹き出してしまって。
やきもちって…
今更っ…!?
「なに?なんで笑うの…?」
いやにのちゃん…
それ可愛すぎ…
