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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






ビシッと指を指されぐっと唾を飲み込んだ。



…ヤバい。


俺やっぱ顔に出ちゃってたんだ。


だって仕方ないじゃん、にのちゃんが可愛いんだもん…



依然呆れたような眼差しで見つめてくる大ちゃんに何も言い返すことが出来ず。


「あのなぁ、うるさい生徒たちを上手くかわさなきゃなんねぇ俺の身にもなれってんだ」

「…はい、すみません」

「今までよくバレずにこれたなお前ら」

「…ねぇ」


傍の丸椅子に腰掛けながら頭をポリポリと掻くその様子を黙って見ていると。


「つーか…俺はな、お前らだから理解できるっつってもいいくらいなんだぞ」

「え?」

「これでもな、お前らのこと分かってるつもりなんだよ俺は」


丸めた背中のまま呟くように話しだす大ちゃん。


その纏う雰囲気がいつもと違って自然と背筋が伸びる。


「…そう簡単にうまくいくヤツらばっかじゃねぇんだよ、こういう恋愛ってのは」


…え?


「お前らや松本先生たちだからここまでこれたんだよ」

「……」

「それってすげぇことなの分かってんのか?」


見上げて小さくそう溢し、すぐに伏せられた瞳。


「別にお前らのこととやかく言うつもりもねぇし…むしろ応援してんだよ俺は」

「……大ちゃ」

「けどな、そういう環境でずっと居られるなんて保障はなんもねぇかんな」


言い終えてチラリこちらを見上げた大ちゃんの瞳は。


どこか翳のある中に強い意志のこもった色を帯びていて。


その言葉と眼差しにドクンと胸を打たれる。


そして目の奥からツンと込み上げてくる熱い感覚。


「だからな…大事なんだったらもっと振る舞いとか考えねぇと。自分たちだけじゃどうにもなんねぇことの方がまだ多いんだよ、残念だけど」


言い終えて椅子から立ち上がり、器具の並ぶ棚に向かう小さな背中。


大ちゃんの言ってくれたことって…


もしかして大ちゃんも…


「あの、大ちゃん…」

「悪ぃけど部活始まんだわ」


こちらに背を向けたままそれだけ言うと、ガチャガチャと器具を取り出し始めたから。


言いたいことも聞きたいこともあったけど、静かにお辞儀だけして物理準備室を後にした。

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