
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
「もうほんっとーにありがとうございましたぁ!やっぱり二宮先生に相談して良かったですぅ!それじゃあまた明日!失礼しまぁ〜す」
お店の前で一気にそう捲し立てると、ぺこっと一礼してスキップでもしそうな勢いで帰っていった加藤先生。
取り残された俺は、ずり落ちそうなショルダーベルトを握り締めてその場に立ち尽くしていた。
結局。
加藤先生の"相談"は半ば一方的で、俺に聞きたいことがあった筈なのにそのほとんどの時間は加藤先生のマシンガントークに終わって。
慣れない場所に居た上、加藤先生の圧に終始やられっぱなし。
それにその相談っていうのが…
はぁと肩を落として腕時計に目を遣る。
もうすぐ日付が変わろうかとしている時間。
いつもならとっくにベッドに入っている時間。
そう考えると一気に襲ってきた疲労感。
ふぁ、と欠伸をしながら歩き出した時、ふいに僅かな振動を感じたカバンの中。
ハッとして手探りにそれを掴んで画面を滑らせると。
『ねえだいじょうぶ?まだおわんないの?』
急いで打っているのか平仮名だらけの文面。
その前にも幾度となく送信されていたメッセージにやっと反応することが出来て。
『ごめん!ずっと見る隙なくて。今終わったよ。ごめんね』
歩きながらつらつら打っていると送信する前に着信画面に切り替わった。
慌てて通話ボタンを押せばすぐに聞こえてきた耳障りの良い声。
『にのちゃん!ちょっと心配したんだから!大丈夫だった?』
「ごめんごめん!大丈夫だよ。
ごめんねほんと、心配かけて」
『ほんとだよもう~…つーか加藤くんだいぶ粘ったね。そんなに込み入った話だったの?』
「え?あ…うん、まぁ…そうだね…」
ぽつぽつと灯る街灯の中、すぐ傍に感じられる相葉くんの声がさっきまでの疲労感を攫っていくようで。
『ねぇ一人で大丈夫?迎えに行こっか?』
「ふふ、大丈夫。ありがと」
『じゃあ家に着くまで切らないで。今どのへん?』
「…今ね、大通りのいつものコンビニのとこ」
相葉くんの声に守られているような感覚で一人きりの夜道を歩く。
加藤先生のことは…
相葉くんには言えないかなぁ…
