
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
キョロキョロと周りを見渡して、どことなく感じる居心地の悪さに不安が募る。
終業後、加藤先生とやってきたのは小洒落たフレンチレストラン。
普段あんまり行くことのない場所ということと、対面に座るそんなに親しくない加藤先生と一緒だということがどうにも落ち着かなくて。
メニュー表を見ながら手慣れた様子でお店の人に話しかける姿を気にしつつ。
手元に隠したスマホの画面に指を滑らせる。
本当は今日、相葉くんがうちに来る予定だった。
今朝出掛けにそう約束して、内心すごく楽しみにしてたのに。
"教育実習中だから"ってセーブしてたお互いの気持ちが昨日溢れちゃったから。
つい俺もいいよって言っちゃって。
…ううん、違う。
そんな風に言うのはずるいよね、俺。
俺だって相葉くんと一緒に居たいって思ったから。
それに、結局あの教室でのことをちゃんと相葉くんから聞けてなかったんだ。
あの生徒とは何もないっていうのは勿論信じるけど、他の理由って何なんだろうって。
少なからずあそこで見た光景は普通じゃなかったから。
あんな風に頭を撫でたり抱き着かれたり…
それでほんとに"何にもない"って言えるのかな。
…別に疑ってる訳じゃない。
うん、疑ってなんかないよ。
ただ、なんかやっぱり…
俺じゃない誰かとそんなことするのはやだ。
…これって完全にヤキモチだよね。
『今日はごめんね、相葉くん。明日は会える?』
『にのちゃんさびしいよー!けど仕方ないよね。明日も明後日も会えるけど今日も会いたい!遅くなる?家で待ってちゃだめ?』
『うーん、遅くなるかもしれないし…どうかなぁ』
『加藤くんでしょ?そんなに長話することないよね?早めに切り上げて帰っておいでよ』
『そうだね、俺もそうしたいけどわかんな
「二宮せんせっ!」
「わっ…」
目線を手元に落として指を動かしていた所に急に名前を呼ばれて。
思わず指が滑ってそのまま送信してしまった。
「先生何にしますぅ?」
メニュー表を広げてずいっと満面の笑みを寄越す加藤先生に苦笑いを浮かべ。
さり気なくスマホをカバンに仕舞いつつ、小さく書かれたメニュー表の文字に意識を移した。
