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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






「じゃあまた後でね」


アパートの下、自転車に跨って満面の笑みで振り返る相葉くん。


"いってきまーす!"と言いながら、ぶんぶんと大きく手を振ってペダルを漕ぎだした後姿に小さく手を振って。


なんだか一緒に住んでるみたい、なんて心の中で一人呟けばまた赤くなる顔。


昨日まで沈んでいた気持ちが嘘のように晴れた俺は。


救いようのないほど単純で、どうしようもないくらい相葉くんが好きなんだって思い知らされる。


不安とか不信とかそんな燻ぶった火種は全部、相葉くんが一気に消火してくれたような気がして。


子どもなのはどっちなんだろうって、自分でも恥ずかしくなるけど…



ふぅと一息ついて肩掛けバッグのベルトをぎゅっと握り直し、澄んだ青空を見上げながら一歩を踏み出した。



***



段々と学校に近付くにつれ、朝補習や朝練のある生徒の登校の群れが見えだす。


眠気たっぷりの生徒たちに挨拶をしつつ、てくてくとその中を通り過ぎようとした時。


「二宮せんせぇー!おはようございますぅー!」


後ろからかなり大きな声で呼び掛けられ、思わずびくっと肩を揺らして振り返れば。


「やだぁ、良かったぁ朝会えて!」


朝イチとは言えない程キラキラした目力で近付いてくる加藤先生で。


「あ、おはようございます…」

「ちょっといいですかぁ?あのぉ、二宮先生にお願いがあってぇ…」


体を寄せてこそこそと話す加藤先生にたじろぎつつ生徒の群れを一緒に歩く。


思えば加藤先生とはそんなに話したことはなくて。


大野先生が指導担当だからそんなに接点はなかったのになんでこんな親密な感じに…


「あのぉ…大野先生のことで相談があるんですけどぉ…」


今しがた思い浮かべていた人物の名前が出たことに驚いて加藤先生を見れば。


"やっぱりぃ~どうしよっかな~"と言いながら頬を赤らめてモジモジしていて。


…うん?


頭にハテナマークを浮かべたまま未だ恥ずかしそうなその様子をジッと見つめていると。


「うんっ!よし!聞いちゃおう!うん!」

「…あの、加藤せんせ…」

「あのぉ、今日の夜とかちょっとお時間ありませんかぁ?」

「え?」

「二宮先生に聞きたいことがあるんですぅ!」

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