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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






「なん…ですか?」


にのちゃんと目を合わせることができず、両手を膝の上に置いてぎゅっと握り締めた。



どうしよう…
なんて言ったら…



「あの、私…
いびき、かいてませんでした…?」



…え?



全く想定していなかったその言葉に思わずにのちゃんを見ると。


ほんのりピンクに染めたほっぺたのまま、神妙な顔つきで俺の返事を待つその瞳とぶつかった。


間近でこんなに真っ直ぐ見つめられて、頭で考える暇もなく促されるように口を開く。


「や、かいてなかったけど…」

「…そうですか」


俺の返事にホッとしたような声でそう答えると、目を伏せて緩く口を閉じて。


「…よかった」


ぼそっと呟いたあと、唇がふんわりと弧を描いた。



…っ!


うそ…


にのちゃんが…


笑ってる…!



初めて見る目の前の光景はかなり衝撃的で。


それと同時に、その可愛らしい笑顔に完全に撃ち抜かれた。


だって、いつもの仏頂面からはとても想像できなかったから。


…こんなふうに、笑うんだ。



取り憑かれたようにぼーっと見入ってしまっていた俺に気付き、口元に拳を作りこほっと咳払いをするにのちゃん。


「…他の生徒には内緒にしてもらえますか?」

「えっ?」

「居眠りしてたこと…」

「あ…うん、」

「あといびきも…」

「え?」

「…内緒にしててくださいね」


念を押すようにそう言うにのちゃんは、もういつもの仏頂面に戻っていて。


ジッと見つめられるけど、ジワジワと込み上げてくる嬉しさを抑えられない。



…まさかそんな秘密を握らされるなんて。


にのちゃんて意外とそういうこと気にするんだ。


またひとつ、にのちゃんのことを知れた。


寝顔の破壊力も、
想像を絶する笑顔も、
可愛い秘密も。


ぜんぶ…
俺だけが知ってることなんだ。



「んふ…」

「…何がおかしいんです?」

「あっ、いやっなんでもない!」


眉間に皺を寄せて覗き込むように睨まれ、慌てて手をぶんぶんと振る。


「…うん、内緒ね」


ゆるゆるの頰を抑えずにそう言うと、にのちゃんはピンクのほっぺたのままふいっと目を逸らして教科書に目線を落とした。

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