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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






「ぜっ、ぜんぜんっ!
いや…えっと、なんで…にのちゃんが、」


首を横にぶんぶん振って焦りながら聞くと間髪入れずに返ってきた。


「大野先生に頼まれたので。
相葉くんの数学をみてあげてほしいと」

「えっ、数学!?」

「はい、数学の免許も持ってますから、私」

「えっ!そうなの…?」

「ええ。前からお願いされてたんですが今日は時間が取れたので」


次々と訪れる事実に思考が追いついていない俺をよそに、ペンケースを開けて淡々と準備を始める手元。



…いやちょっと大ちゃん!
いきなりこれはなしだってば!


にのちゃんのことどうしたらいいか分かんないって言ったじゃん!
こんな状況…どうしたらいいんだよ!


ふと脳裏に大ちゃんのにやけ顔が浮かぶ。


もう…マジでどうすんの?
俺、心臓もたないかもしんない…


そう思ったらやけに大きくなる鼓動がうるさくて。


落ち着こうとバレないようにすうっと息を吸った時。


「それと…」


ふいにぽつり呟く声がして、グッと息を止めてぎこちない視線を送る。


教科書を捲る指を止めたにのちゃんが、目線を彷徨わせて小さく口を開いた。


「…恥ずかしいところを、見せてしまったので…」


語尾が消えかかった小さい声でそう言うと、耳がふわっと赤くなったのが分かって。



え…?



「昨日は…うっかり寝てしまってました。
あんなところを生徒に見られるなんて…
すみませんでした」


下唇をきゅっと噛んでメガネをくいっと上げたにのちゃんのほっぺたは、ほのかにピンク色に染まっていて。



え…
照れてる?


うそだろ…
かわいすぎるっ…!



目の前の初めて見るにのちゃんの表情に体の内側からジンと熱くなっていく。


「いやっ…別にぜんぜん!
そんなことない!」


むしろ見せてくれてありがとうって感じだし!


心の中で呟くと、にのちゃんがふと目を上げた。


えっ、今の心の声漏れてないよね!?



「…ひとつ、聞いてもいいですか?」


思わず口を覆った俺を、眉間に皺を寄せメガネの奥から上目遣いで見つめてくる。


…あ、ヤバい。


なんであんな近くにいたんだ、って思われてるよね…?

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