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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






なだらかな坂を自転車で駆け登り、校門に近付くとひょいっとサドルから降りる。


少し先の制服の群れに見知った後ろ姿を見つけ、自転車を押して駆け寄った。


「翔ちゃんおはよ!」

「っ!…びっ、くりした〜…」


スッと横に並んで声をかけると大げさに肩を揺らして驚く。


「おはよ…」

「え、なにどしたの?
風邪引いた?」

「ちげーよ…
ん〜、なんつーか…」

「なに〜?
母ちゃんとケンカでもした?」

「ちげーし。
つぅかお前やけに楽しそうだな」


恨めしそうに俺を見ながら翔ちゃんがぼやく。


「あ、わかる?」

「わかるわ、そのだらしねぇ顔。
なに?相葉くんどうしたのかな?」

「ふふ…ひみつー!」

「はぁ?こいつマジうぜー!」


目をぎゅっと閉じて笑いながら叫ぶ翔ちゃんにつられて、あははと腹の底から笑った。



昨日は家に帰ってからもずっとフワフワした気分だった。


にのちゃんとの秘密の約束のあと。


とりあえず数学を教えてもらってたはずなんだけど、全く内容を覚えてなくて。


本人を前にして、頭の中で色んな表情をするにのちゃんを振り払うので精一杯だったんだ。


そんな俺の様子のおかしさに気付いたのか、"集中できないなら終わります"と言われて30分も経たずに補習は終了してしまったけど。


最後に"またお願いしていい?"って聞いたら、ちょっと考えて"私で良ければ"って言ってくれたから。


そう言って、笑ったような気がしたから。


…俺いま、すっごい幸せかも。



カラカラと車輪の音を軽快に鳴らしつつ校門に目を遣ると、腕を組んでにこやかに挨拶に立つ松潤の姿が。


うわ、朝から松潤だよ…


幸せな余韻に浸ってたのに急に緊張感が走る。


ふと隣に違和感を感じて顔を向ければ、翔ちゃんはそこにはいなくて。


数メートル後ろで真っ赤な顔で俯いていた。


「…どしたの翔ちゃ、」

「雅紀ごめん先行くわ!」


言うが早いか、俯いたまま俺を追い抜き校門をくぐって行ってしまった。


「えっ!ちょっ、待っ…」


唖然とする俺に松潤が挨拶をしてくる。


「相葉、おはよう」

「あ、おはようございます…」

「櫻井…どうしたんだろうな?」


ニヤっと不敵に笑うその笑顔に、なぜだか分からないけど背筋がゾワッとした。

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