
君が桜のころ
第2章 花影のひと
庭園に美しく設置された白い天蓋付きのベンチに礼人は綾佳をいざない、丁寧にエスコートして座らせる。
「お飲物は?シャンパンはいかがですか?それともジュースがよろしいでしょうか?」
「…いいえ、結構です…」
綾佳はまだ初対面の男性と二人きりの状況に慣れず、小さな声で答えると俯いて、レースのハンカチを握りしめる。
そんな綾佳に気を悪くする様子もなく、礼人はひたすら綾佳を見つめる。
余りに熱心に見つめられ、流石の綾佳もやや当惑したように瞳を上げる。
「…あの…」
はっと自分の無礼に気づいた礼人は慌てて詫びる。
「…申し訳ありません。不躾に見つめてしまいまして…綾佳さんが、余りにお母様に良く似ておられるのでつい…目が離せなくなりました」
礼人の意外な言葉に、綾佳は大きな瞳をさらに見開く。
「お母様…いえ、母をご存知なのですか?」
礼人はやはり綾佳を熱く見続ける。
そして、その瞳に語りかけるように答えた。
「…はい。まだ綾佳さんがお生まれになる前ですが…何度かお会いしました。…例えようもなくお美しく…気高く…忘れがたい方でした…」
大好きな母の最大の賛美を聞き、綾佳は初めて嬉しげに笑った。
その笑みは余りに無垢で透明感に包まれている美しさだった。
礼人は思わず見惚れ、呟いた。
「…綺麗だ…」
綾佳が驚き、また恥ずかしそうに目を伏せてしまう。
「重ね重ね申し訳ありません。…綾佳さんにお逢い出来た嬉しさに…我を忘れてしまいました」
洗練された物腰に似ず、不器用な詫び方に誠実さを感じた綾佳は首を振る。
「…母を懐かしんで下さる方にお逢いできたことは、私も嬉しいですわ。
…あの、私はそんなに母に似ていますか?」
「…生き写しのようです…。まるで綾子さんがここにいらっしゃるようだ…」
「…母の名前まで覚えていらっしゃるのですか」
礼人は懐かしげに微笑んだ。
「…はい。忘れられません…。あんなにもお美しい方を私は未だに知りません。
…しかし、今日、私はそれを改めなくてはなりません。
綾佳さん、貴女は綾子さんに生き写しだ。…そして綾子さんのように…いや、それ以上に美しい。私は感激しています」
「…清賀様…」
礼人のひたむきな熱い眼差しに捉えられ、綾佳は目を逸すことが出来ない。
「…礼人と呼んでください。…いや、本当は…」
礼人は何かを言いかけ…ふと我に返り、やや哀しげに首を振った。
「お飲物は?シャンパンはいかがですか?それともジュースがよろしいでしょうか?」
「…いいえ、結構です…」
綾佳はまだ初対面の男性と二人きりの状況に慣れず、小さな声で答えると俯いて、レースのハンカチを握りしめる。
そんな綾佳に気を悪くする様子もなく、礼人はひたすら綾佳を見つめる。
余りに熱心に見つめられ、流石の綾佳もやや当惑したように瞳を上げる。
「…あの…」
はっと自分の無礼に気づいた礼人は慌てて詫びる。
「…申し訳ありません。不躾に見つめてしまいまして…綾佳さんが、余りにお母様に良く似ておられるのでつい…目が離せなくなりました」
礼人の意外な言葉に、綾佳は大きな瞳をさらに見開く。
「お母様…いえ、母をご存知なのですか?」
礼人はやはり綾佳を熱く見続ける。
そして、その瞳に語りかけるように答えた。
「…はい。まだ綾佳さんがお生まれになる前ですが…何度かお会いしました。…例えようもなくお美しく…気高く…忘れがたい方でした…」
大好きな母の最大の賛美を聞き、綾佳は初めて嬉しげに笑った。
その笑みは余りに無垢で透明感に包まれている美しさだった。
礼人は思わず見惚れ、呟いた。
「…綺麗だ…」
綾佳が驚き、また恥ずかしそうに目を伏せてしまう。
「重ね重ね申し訳ありません。…綾佳さんにお逢い出来た嬉しさに…我を忘れてしまいました」
洗練された物腰に似ず、不器用な詫び方に誠実さを感じた綾佳は首を振る。
「…母を懐かしんで下さる方にお逢いできたことは、私も嬉しいですわ。
…あの、私はそんなに母に似ていますか?」
「…生き写しのようです…。まるで綾子さんがここにいらっしゃるようだ…」
「…母の名前まで覚えていらっしゃるのですか」
礼人は懐かしげに微笑んだ。
「…はい。忘れられません…。あんなにもお美しい方を私は未だに知りません。
…しかし、今日、私はそれを改めなくてはなりません。
綾佳さん、貴女は綾子さんに生き写しだ。…そして綾子さんのように…いや、それ以上に美しい。私は感激しています」
「…清賀様…」
礼人のひたむきな熱い眼差しに捉えられ、綾佳は目を逸すことが出来ない。
「…礼人と呼んでください。…いや、本当は…」
礼人は何かを言いかけ…ふと我に返り、やや哀しげに首を振った。
