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君が桜のころ

第2章 花影のひと

綾佳が春翔達と談笑していると、向こうから先ほど挨拶した清賀礼人がやって来た。
そして洗練された物腰でにこやかに話しかけて来たのだ。
「お話中、失礼いたします。
…綾佳さん、少しよろしいですか?」

春翔はあからさまにむっと眉を顰める。
「なんですか?綾佳ちゃんに何か用ですか?」
そして、自分の背後に綾佳を隠すようにする。
そんな失礼な行為にも全く物ともせずに、礼人は、穏やかな笑みを浮かべる。
「…少し、綾佳さんと二人きりでお話をしたいのです。…ほんの数分で構いません。私にお時間を頂けませんか?」
綾佳は礼人の真摯な眼差しを受け、思わず俯く。
それを拒絶のサインと受け取った春翔は、得意げに言う。
「…悪いけど、綾佳ちゃんは初対面の人と気安く話はしないんです。恥ずかしがり屋さんで人見知りだから…」
…と、その時…
か細い声が春翔の背後から聞こえた。
「…あの…少しでよろしいのでしたら…」
礼人の瞳が輝く。
「ええ〜ッ⁉︎あ、綾佳ちゃん!」
春翔が驚きのあまり、叫び出す。
「…少しなら…構いません」
綾佳は広間を見渡す。
凪子が慎一郎や他の来客らと楽しげに話しているのが見えた。
綾佳の視線を感じたのか、凪子が綾佳を見る。
その瞬間、綾佳の中に凪子に心配させてやりたいような…嫉妬させてやりたいようなとても複雑な気持ちが生まれたのだ。
そして、先ほど凪子に愛の告白をしたことで、どこか自分の気持ちが吹っ切れて他人に対して物怖じせずにいられるような心持ちにもなっていた。
「ありがとうございます。綾佳さん。では少しお庭に出てお話しませんか?」
礼人は綾佳に手を差し伸べる。
「あ、綾佳ちゃん!」
春翔が綾佳を引き止めんばかりに声をかける。
「少しだけお話しをしてまいります。ご心配なさらないで、春翔さん」
綾佳は静かに微笑む。
「綾佳ちゃん!」
綾佳は礼人に恭しく手を取られ、バルコニーから庭へと導かれて行った。
「…綾佳ちゃん…!」
おろおろする春翔に友人達が気遣う。
「おい、春翔。大丈夫か?しっかりしろ」
「ああ、もうっ!ちょっと外の世界に出たらあっという間に他の男が寄ってくるじゃないか!
…やっぱり、綾佳ちゃんは離れにいたままの方が良かったのかなあ〜」
1人頭を抱えて身悶える春翔を友人達は同情めいた視線で見守るのだった。



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