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君が桜のころ

第2章 花影のひと

綾佳はどうやら若い大学生達に囲まれているらしい。
はにかみながらも微笑みつつ、一生懸命会話する姿がなんとも愛らしい。
礼人はシャンパンを口に運びながら、綾佳から目が離せない。

…想像以上だ…。
想像以上にあの人に似ている。生き写しだ。
…そして、あまりに美しい…。
熱い眼差しで綾佳を食い入るように見つめる礼人に、朝霞が興味深げに声をかける。
「…へえ…、清賀はああいういたいけなお姫様が好みだったのか」
「…いや、そういう訳ではないが…」
朝霞は礼人の肩に腕を回し、したり顔で説明をする。
「綾佳さんはお母様が亡くなられてからずっと離れに引き籠っておられたようだ。それが慎一郎が結婚して、凪子さんが輿入れされた途端に、ようやく外の世界にお出ましになられたそうだよ」
「…綾佳さんは凪子さんと大変仲が良さげにお見受けしたよ。麗しき姉妹だな」
朝霞は声を潜める。
「…ここだけの話…九条家は名門華族だが、内情は火の車…破綻寸前だったのだ。
それを救ったのは凪子さんがあの一之瀬家から持参した莫大な持参金さ。
九条家は慎一郎にしろ綾佳さんにしろ凪子さんと言う救世主に救ってもらったようなものだ。
…美しい上に大富豪の妻、実に羨ましい」
俗物な笑いを漏らす朝霞をよそに、礼人は綾佳を改めて見つめる。
そして、シャンパンの杯をテーブルに置くと何かを決意したような引き締まった表情で、足を一歩踏み出した。

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