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君が桜のころ

第2章 花影のひと

「…愛しています。お義姉様…」
綾佳は思いの丈を叫び、凪子に縋る。
「…綾佳さん…」
「愛しているの…お義姉様を思って苦しいくらいに…本当よ…お義姉様…」
綾佳が強く凪子を抱きしめる。
そして凪子の美しい彫像のような顔に触れ、熱い眼差しで告白する。
「本当は…お兄様とお義姉様がご一緒にいらっしゃるのを拝見するのも辛い…お二人が…寝室で何をしていらっしゃるのか…想像するだけで苦しくて…」
凪子は潤んだ眼差しの綾佳を見つめ返し、妖しく笑った。
「苦しいだけ…?」
「…え?」
「…欲情したりなさらないの?綾佳さん…」
「…お義姉様…?」
凪子の白い指が綾佳の美しく隆起している胸元に滑る。
「…あっ…!」
ドレスの上から形の良い乳房を掴まれ、ゆっくりと愛撫される。
「…お…ねえさま…ん…っ…」
甘く痺れるような快感が全身を駆け巡る。
堪らず、綾佳は凪子の唇を求める。
「…んん…っ…おねえさま…あ…ん…」
凪子は宥めるように優しく綾佳に唇を与える。
「綾佳さん、貴女の私への愛がお母様を求める感情なのか、それとも恋なのか…それは私にもまだ分からないわ。
…なぜなら貴女はようやくあの暗く閉ざされた世界から一歩歩みだしたばかりだから…」
「恋だわ…私はお義姉様に恋をしているの…」
尚も欲しがる綾佳の可憐な唇を、凪子は細く美しい人さし指で封じる。
「そう…もしそうだとしても…私は貴女のお兄様の妻よ。…許される関係ではないわ」
「…お義姉様…」
哀しげに歪む綾佳の表情に図らずも凪子の胸は痛む。
「私はね、綾佳さん。貴女の身も心も開放して差し上げたいの。
…貴女に広くて美しくて光り輝いている世界を見せて差し上げたいの…。
だから…恋は他の方となさい…」
「…お義姉様…」
母に捨てられそうな子供のような眼差し…。
…私は、自分に言い聞かせているのかもしれない…。
この稀有なほどに美しく可憐な少女に惹かれている自分を…。
哀しげに縋るように見つめる綾佳を凪子は優しく抱きしめる。
そして
「でも…貴女に愛していると言われて、私は自分でも驚くほど動揺したわ…そして…嬉しかった…」
「…お義姉様…」
凪子は綾佳の清らかな額に唇を落とす。

「奥様、綾佳様、お出ましのお時間です」
皐月の声がドアの向こうから聞こえた。
凪子は美しい笑顔で手を差し伸べる。
「さあ、まいりましょう。私の大切な綾佳さん」

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