
君が桜のころ
第2章 花影のひと
…そして、慌ただしい日々は瞬く間に過ぎて、いよいよ慎一郎と凪子の結婚のお披露目会当日となった。
広間の絨毯やカーテンは一新され、優雅な雰囲気を醸し出している。
壁には九条家に伝わる名画の数々が飾られ磨き上げられた調度品や銀器の数々…。
そこかしこに配置された華やかな西洋花…。
凪子の演出で呼ばれたカルテット奏者達が音を合わせている。
弾むようにお茶会の準備に動き回る若いメイド達…。
家政婦の麻乃はメイド達にきびきびと指示を与えながらも感無量になる。
…このお屋敷が、またあの頃のように華やかな日々を取り戻したわ。
旦那様と奥様が生きていらして、たくさんの華やかなお客様をお迎えしたあの頃のように…。
そこに綾佳の乳母のスミがやってくる。
「まあ、なんて素晴らしい広間に…!昔を思い出しますわね、麻乃さん」
スミも会場の華やかな装飾や調度品、花の数々に目を輝かせる。
「本当に…。旦那様がご存命中はよくこのようなお茶会が開かれましたわね。
奥様は本当にお美しい方で、ドレスもとてもお似合いで…殿方にもよく取り囲まれていらっしゃいましたわ」
麻乃はふと思い出す。
「…そういえば…奥様には熱烈な信奉者がいらっしゃいましたわね。…なんて仰ったかしら…洋行帰りの…」
昔のことはなかなか思い出せない。
「…そう…でしたかしら…」
スミは少し戸惑ったように言葉を濁す。
「ええ…。奥様は慎み深い方でしたから、どなたとも公平にお話になられていましたけれど…確かお一人、とても仲がよろしかった殿方がいらしたような…ハンサムで洗練されていて…社交界でも人気者の方で…ええと…お名前は…」
なおも考え込み、思い出そうとする麻乃にスミはさりげなく違う話題を振る。
「まあ、麻乃さん!お庭にも会場が?」
スミに促されるまま、硝子の扉が開け放たれたバルコニーから続く庭園を見る。
春の陽射しが本格的に降り注ぐ中、白を基調とした天蓋付きのテーブルセットや、ソファが準備され、ガーデンパーティーも楽しめるようにと、様々な趣向が凝らされていた。
「さすがは凪子様ですわね。欧州帰りの方は発想が斬新ですわ」
スミが感動する。
確かに、美しい早咲きの薔薇や桜やチューリップなどの花々を愛でつつパーティーが楽しめるようにと配慮されたものは、麻乃が今まで体験したことのない新鮮なものだった。
広間の絨毯やカーテンは一新され、優雅な雰囲気を醸し出している。
壁には九条家に伝わる名画の数々が飾られ磨き上げられた調度品や銀器の数々…。
そこかしこに配置された華やかな西洋花…。
凪子の演出で呼ばれたカルテット奏者達が音を合わせている。
弾むようにお茶会の準備に動き回る若いメイド達…。
家政婦の麻乃はメイド達にきびきびと指示を与えながらも感無量になる。
…このお屋敷が、またあの頃のように華やかな日々を取り戻したわ。
旦那様と奥様が生きていらして、たくさんの華やかなお客様をお迎えしたあの頃のように…。
そこに綾佳の乳母のスミがやってくる。
「まあ、なんて素晴らしい広間に…!昔を思い出しますわね、麻乃さん」
スミも会場の華やかな装飾や調度品、花の数々に目を輝かせる。
「本当に…。旦那様がご存命中はよくこのようなお茶会が開かれましたわね。
奥様は本当にお美しい方で、ドレスもとてもお似合いで…殿方にもよく取り囲まれていらっしゃいましたわ」
麻乃はふと思い出す。
「…そういえば…奥様には熱烈な信奉者がいらっしゃいましたわね。…なんて仰ったかしら…洋行帰りの…」
昔のことはなかなか思い出せない。
「…そう…でしたかしら…」
スミは少し戸惑ったように言葉を濁す。
「ええ…。奥様は慎み深い方でしたから、どなたとも公平にお話になられていましたけれど…確かお一人、とても仲がよろしかった殿方がいらしたような…ハンサムで洗練されていて…社交界でも人気者の方で…ええと…お名前は…」
なおも考え込み、思い出そうとする麻乃にスミはさりげなく違う話題を振る。
「まあ、麻乃さん!お庭にも会場が?」
スミに促されるまま、硝子の扉が開け放たれたバルコニーから続く庭園を見る。
春の陽射しが本格的に降り注ぐ中、白を基調とした天蓋付きのテーブルセットや、ソファが準備され、ガーデンパーティーも楽しめるようにと、様々な趣向が凝らされていた。
「さすがは凪子様ですわね。欧州帰りの方は発想が斬新ですわ」
スミが感動する。
確かに、美しい早咲きの薔薇や桜やチューリップなどの花々を愛でつつパーティーが楽しめるようにと配慮されたものは、麻乃が今まで体験したことのない新鮮なものだった。
