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僕は君を連れてゆく

第67章 瞬きの合間に

ラストライブに向けて雅紀たちはリハーサルや打ち合わせなどに忙しかった。

家に来ると言ってはくれるのだかツアー前の忙しさは分かってるから俺から遠慮したんだ。

「このあとフリーになりました」

「え?なんで?」

「松本さんの都合がつかないんですよ」

またか。
最近、潤の忙しさは尋常じゃない。

撮影した映画の公開が来年の夏に決まって映画祭やらもあってまた向こうとこっちの行き来が始まった。
俺と潤の二人の仕事はなくなるか、スケジュールをずらすことが多くなっていた。

「別に俺だけでも出れるよ?」

「…まぁ、そうなんですけど」

「…?」

なんだ、この変な間は。

「いや、こっちもピンでお願いするんですけど…二人でって…」

「どういうことだよ」

「言葉通りですよ、ピンではなくお二人で、ってことです」

なんだかスッキリしない。

「ふーん、まぁいいけど」

暇になった俺は仕方なく来週の音楽番組の出演者が披露する曲を聞くことにした。
集めた資料を持って事務所のカフェスペースに移動した。

そこには誰もいなかった。
テーブルと椅子が並んだところと円卓があって畳みになってるところ、背もたれの高いソファーがあるところ。

俺はソファーに腰かけた。
自販機で買ったコーヒーをテーブルに置いて資料を広げた 。
ここは入り口から死角になっているから回り込まないと誰か座ってるかはわからない。

一曲聞いて一度イヤホンを外す。
体を伸ばしていたら話し声がした。

「松本くんの去年の映画、再放送権とれましたよ!」

「再来年の大河のオファーもきてるとか」

嘘だろ!?
俺、聞いてないけど。

「来年映画の公開だからまだ返事してないって話だよ」

「松本くんがここまでくるとはね~」

「確かに。昔はちょっと取っ付きにくい感じでしたよね」

そうだ。
デビューと思春期が重なっていた俺たち。
潤は少し尖っていた時期があった。
懐かしい話をしてるなぁ、なんて聞いていた。

「でも今じゃ仕事したくてたまんないって感じっすよね」

「礼儀もきちんとしてるしコミュニケーションとるのもうまいんだよね」

こうやって相方が褒められているのを聞くのはとても新鮮でむずがゆい。

が。
「今年はコンサートやれないっぽいですよね」

「あぁ…ソロになるって噂、本当かな?」

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