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僕は君を連れてゆく

第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―

〈兄の間違い〉

「母さん、ちょっといい?」

俺に対する潤の気持ちは痛いほどに伝わってくる。

触れる指先が熱くて、俺を見つめる眼差しが熱くて。

溶けてしまいそうなんだ。

「俺、家を出ようと思う」

兄弟の俺たちがこんなことしてるなんて、
もし、親たちに気づかれたら。

そう思うと怖くて。

家を出る決意をした。

それなりに真面目に勉強をやってきたから大学は無理しなくても選べるくらいの数があった。

「寂しいわ」

と、母さんが言ってくれた。

「別に一生会えないわけじゃないんだから」

「それもそうね」

母さんも父さんも特に理由も聞かずに俺の決意に同意してくれた。

この兄弟の戯れ、とは言えない嫉妬と欲望が強くなっていくばかりの行為を終わらせるのは俺の役目。

俺は、潤の気持ちなんて構うことなく、一人で勝手に決めた。

弟だから、俺の決意を受け入れてくれる、そう思い込んだ。
そして、兄として、弟に言い聞かせなければならないと。

ここまで、弟の身体を受け入れたくせに、最後の最後には兄として振る舞いたい、というクソみたいなプライドを振りかざす。

そこから俺は、弟と距離をとることにした。


「俺、今日から塾行くから」

「帰り迎えに行こうか?」

「別に平気、雅紀もいるし」

「でも、本当に気を付けてよ」

弟がまだ起きてくる前に話をつけて、家を出る。

いつもの電車に乗り込んで。

雅紀が乗ってくる駅まで、参考書を開くようにした。

もう、雑音を聞くことはないだろうから。

イヤホンは部屋に置いてきたから。

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