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僕は君を連れてゆく

第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―


「え?塾?なんで?」

雅紀は電車の中だということを忘れてるかのようなデカイ声で俺の言葉を反芻した。

「バカ!声がデカイ!」

潤のクラスメイトが車内にいるかもしれないのに。

「ごめん!でも、なんで?」

「俺、家…出ようと思って…」

県外の大学を受験したいと先生に相談してること、
両親にはそれを伝え、了解を得たこと、
潤には話してないこと、これからも話さないこと、
をザッと話した。

「流れは分かったけど…なんで県外の?俺たち卒業してからも会えると思ってたのに…」

「会えるよ、別に外国に行く訳じゃないんだから」

「それはそうだけど…」

納得してない顔をしてる。
でも、理由なんて言えるわけない。
いくら雅紀でも。

「いつから?」

「何が?」

「いつから、悩んでたの?」

いつから…
弟に特別な感情を抱いていることに気がついたのは…

「少し前」

ハッキリと覚えてる。

「ニノはさ、ちっとも俺のこと頼ってくれないんだもん」

「だもんって…」

「俺、どんなニノだって大丈夫だよ?」

「…」

何を俺に言わそうとしてんだよ
言わないよ。
こんなこと。

「って、電車のなかで話すことじゃないかぁ~」

優しく笑って昨日のテレビの話をし始めた。

雅紀と話してると時間はあっという間に過ぎる。

俺がわかんない話も雅紀が笑ってくるから俺もつられて笑ってしまう。

駅に着いて改札を出ながら、思い付いたように
雅紀が話し出した。

「珍しいね、半袖」

「あぁ…、さすがに暑くて…」

「ふぅん…だよね~、もうTシャツで学校来たいよね」


抑え込まれた時についた手首のアザも
俺の弱いところにつけられたアザも
もう消えた。


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