
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
一人で食べた。
櫻井さんはクリームを舐めただけ。
何も嘘は言っていない。
そうだよ…
大丈夫…
「ちょっと、トイレな…」
潤が席を立った。
「はぁぁぁー…」
悪いことなんてしてない。
ただ、
ちょっと連絡を取り合ってるだけ。
だって、お客様だもん。
そう、自分に言い聞かせる。
それなのに。
両手をギュッと握った。
そうしてないと、震えてしまいそうで。
「はぁぁぁー…」
「ん?疲れた?」
「あ、ううん。そんな、こと、ないよ…」
「なぁ、どこのケーキ買ったの?前に食べたいって言ってたやつ?」
どこの、ケーキ?
前に食べたいって言ったケーキ?
落ち着け。
よく、考えろ。
思い出せ。
駅に買いに櫻井さんは行ってくれて、駅のなかにケーキ屋…
思い出せない…
えっと、えっと…
落ち着け、俺…
「和也?なんで?教えてよ!」
「買ってくれるの?」
心臓が痛い。
「珍しいじゃん。和也が一人でケーキなんて。よっぽど、旨いのかなぁって。」
「そんな、別に…
「それとも、誰かに買ってもらったとか?」
と、冗談を言うように言った。
それなのに。
「……ンなわけ、ないじゃん!」
潤の顔が曇った。
一瞬、間が。
その間を、悟られたくなくて大きい声をだして。
それが、逆効果なの分かってるのに。
「誰?」
「…何が?」
「誰に?」
「明日も、早いんじゃないの?シンガポールだっけ?朝イチで連絡しなきゃならないんじゃ……」
「櫻井なのか?」
話題を変えたくて、話し出したら
ボロがでた。
「櫻井なのかよっ!!」
潤の怒声が響いた。
浮気してるの、俺じゃん。
