
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
時計の針が終業時刻を指した。
お疲れ様です、とみんな帰っていく。
その波に逆らった、潤が入ってきた。
「お疲れ。」
「あ、うん。潤も…お疲れ様。」
こんなにぎこちない会話。
「行くか…。」
「どこに?」
「まぁ、乗れって。」
潤の後をついていく。
車の助手席に乗り潤を見た。
真っ直ぐな瞳。
「昨日…悪かった。誕生日。」
「あ…ううん。別に。」
「だから、仕切り直し!」
仕切り…直し…?
車を走らせる潤。
「予約したんだ。」
いつか、テレビで特集を組まれていたハンバーグ屋さん。
食べに行きたい!と話していた。
個室に案内されて冷えたスパークリングワインが
出てきた。
「和也、お誕生日おめでとう!」
グラスが重なった。
「うまっ!」
「チーズすごい、伸びる!」
ディナーのハンバーグを食べながら、
潤の最近の仕事のこと、俺の仕事のこと。
色んな話をした。
お腹も満たされて、満足。
「和也…」
急に潤が静かに口を開いた。
「昨日は、本当にごめん。仕事に追われてて…当日に祝うこと出来なくて。」
頭を下げた。
「別に…そんなのいいよ…」
「あと、結婚記念日だったろ。最低だよな。おめでとうの、一言も言えないなんて…ケーキ、一人で食べたのか?」
ケーキ…
「おめでとうなんて、そんなめでたい歳でもないし…ケーキ…まぁ、そう…」
「珍しいな、一人でケーキなんて。って…俺が言うことじゃないか…」
まさか、ゴミ箱の中を見られるなんて思わなかった。
俺の心臓は急に早足になっていく。
お酒のおかげでぼんやりしていた頭はすっかり覚めた。
「一人でケーキくらい食べるよ…」
