
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
“「ずっと、待ってた…」”
思い出した。
そうだ、
あいつは、和也は
俺が動かないとダメなんだ。
「和…」
寝室のベッドの右側はいつものように盛り上がっている。
そっと、頬に触れた。
暖かい。
「…ごめん…」
寝室を出てキッチンに向かった。
缶ビールが数本だけの何も入っていない冷蔵庫。
水を取り出して飲む。
ゴミ箱が
なぜか、気になった。
ゴミ箱の足元のペダルを踏んだ。
蓋がパカっと開いた。
「ケーキ…」
中には白い箱と白いクリームがついたケーキフィルムのゴミ。
誕生日だから?
結婚記念日だから?
自分で買って、自分で食べたのか?
「……」
誕生日だよってメールでも寄越してくれれば…
いや、そんなことするはずない。
誕生日なんて別にいい。そう言うに決まってる。
結婚記念日をいつにするか、話していたときに
和也の誕生日にしないかと提案したら、そんなめでたい日を俺の誕生日にするなんて…と困った顔をした。
だけど、俺が押しきって6月17日にしたんだ。
それなのに…
和也、ごめんな。
こんな奴で。
シャワーを浴びて和也の眠るベットに入った。
背中を向けて寝る和也を後ろから抱き寄せた。
変わらない背中。
触れようとさえしなかった背中。
暖かい。
布団の中の和也の温もりと仕事の疲れで
俺はあっという間に眠りの世界へ入った。
あのケーキを誰と食べるとか。
そんなこと
考えるわけなかった。
和也が俺を裏切るなんて、絶対にないんだから。
