
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
「結局、この時間になっちゃったな…いつも、ごめんね。」
あと30分で終わりというところで櫻井さんは来店
した。
「いえ。大丈夫ですよ。気にしないで下さいね。」
「松本さ、ちょっと、うまくいってないみたいなんだけど…なんか聞いてる?」
カウンターを挟んで向かい合わせで座る。
目があった途端に潤の話になった。
「いえ、なにも…俺が寝てから帰ってくるし、朝も起きたらもういないから…」
「そっか…じゃぁ、朝はゆっくり出来てるね!」
明るく、俺の気持ちが落ち込まないように話しかけてくれる。
櫻井さんと話していて分かったことがあった。
俺は潤の仕事のことをほとんど知らないということ。
分かっているつもりでいたけど、それはやっぱり、
つもりで、知らないことのほうが多かった。
部署が移動になったのは聞いていたけど、そこが海外まで手を広げる部署だと知ったのはついこの前。
海外での営業活動がうまくいくように英会話まで
習っていたみたい。
今もトラブルがあってその対処に追われているらしい。
「本当に一人で住むんですか?」
「……雅紀さんに、話したんですか?別れるって…」
櫻井さんは首を横に振った。
「言わないつもりですか?」
「まぁ…そのうち…それよりさ、飯行かね?」
「そうですね…どこがいいですか?」
結局、櫻井さんの部屋のことは話が進まないまま。
何を食べようか、携帯でお店を検索し始めた櫻井さん。
「つけ麺は?」
「いいですね!ラーメン大好き!」
「よしっ!決まり!」
