
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
「俺たち、ないんです…ずっと…どんなに言っても俺のこと見てくれなくて…」
もう、自分の中だけに止めておけなくて。
誰かに俺は悪くないって。
そう言ってほしくて。
「………」
「こんな話、するもんじゃないって分かってるんです…でも、でも、俺…」
櫻井さんは俺におしぼりを渡してくれた。
誰かに聞いてほしい。
こんなことで悩んでるのは俺だけじゃないって、
言ってほしい。
大丈夫だよって言ってほしい。
「うちも…うちもそうなりますね…」
櫻井さんを見た。
俺と同じ顔してる。
それから、二人で黙々、焼き肉を食べた。
サービスのアイスクリームも食べた。
お酒を飲むか聞かれたけど断った。
こんな気持ちでお酒を飲んだら、櫻井さんに
確実に迷惑をかける。
「いくらですか?半分…」
「いや、いいって。ね?ここは。俺のが年上だから。ね?」
「いや、でも…」
サラリーマン二人が、焼肉屋の前で財布片手に
押し問答。
「ウフフ。」
そんな画が面白くて、笑ってしまった。
ゆっくりと歩き出した櫻井さんを追う。
5月の夜はまだ、冷える。
「なに?俺の顔になんかついてる?」
「いえ。ついてな…アハハハ!」
笑う俺の顔をジッーと見る櫻井さん。
「え?なに?なんかついてますか?」
「いや…笑った顔のほうが全然、いい。」
「……」
「さっき、泣いて打ち明けてくれたでしょ…
すっごく、悩んでるの伝わってきたんだけど…それよりも、あまりに貴方の顔が綺麗だから…泣いてる人にこんなこと言って、どうかって話なんだけど…」
