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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ



「か、可愛いって…なに、言って…」

「いや…同僚の相手になに言ってんだって感じですけど…」

可愛い、なんて…
こんなことをサラッと言える櫻井さんは
モテるんじゃないかなと思った。

「可愛いなんて、言われませんよ。昨日もみっともないって呆れられちゃって…」

櫻井さんが首を傾げる。
続きを促されたような気がして。

「もう、俺のことなんて何とも思ってないんですよ。キスだって最後にしたのいつだったかな。2年以上してないですよ!世間で言う…なんて、言うんだっけな、そう、仮面夫婦ってやつですよ!」

言い切ったところで店員が、カルビ二人前です、とお皿を運んできた。
櫻井さんがテーブルにある、水やおしぼりをよけてお皿を置くスペースを作る。
テーブルの上はお肉、サラダ、スープにご飯とぎゅうぎゅうに並べられた。

「食べれるかな…」

「アイスクリームもつきます!たくさん、食べましょう!」

トングを手にした櫻井さん。
肉をたくさん網に並べた。

潤は…一枚ずつ。
肉は肉。
野菜は野菜。
手を出そうもんなら、チクチク言われる。
ただ、潤が焼くお肉はめっちゃ、うまいんだけど…

「焼けたかな?…まだか…」

明らかにまだ、赤いところがあるのにトングでお肉の端をつまみ網から離して伺う。
それをどれも繰り返す。

「あの…そんなに触らなくても大丈夫ですよ?」

「へ?あ、そうだよね。ごめん…」

「いや、気になりますよね!焼けたか!」

そう言ったら、眉を下げた櫻井さん。
トングを置いて、大きなため息をついた。


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