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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


店内を見回す。
脂の匂いが充満していて煙が天井を登っている。


「今日、サービスdayなんですよ。だから、結構混んでる !」

おしぼりで手を拭いて、顔まで拭く櫻井さんに
ちょっぴり、驚いた。

「あっ!やっちった…気を付けなきゃっていつも思うんですけどね…」

少し照れて顔を拭いていたおしぼりを4つに綺麗
に畳んだ。

「ウフフフ。」

「いや、笑わないでよ!マジで!引いた?引くよな…いやぁ~参ったな。なんか、カッコわるいとこばっかり見られちゃって。」

「カッコわるいなんて…ただ…アハ、アハハハハ!」

「めっちゃ、笑ってるじゃん!!!」

結局、うちの会社が抱えてる車は全部、打ち合わせ、物件周りに使っていて戻ってくるのに一時間以上かかることが判明した。
歩いて回れる2件を回ったけれど、櫻井さんの希望を叶える条件は整わなくて。

腕時計を見た、櫻井さんは夕飯を一緒にどうですか?と声をかけてくれた。
上司に連絡して直帰の許しをもらい櫻井さんの行きたい店に連れてこられた。
焼き肉屋だった。

意外だった。
イタリアンとかに行きそうなのに。

意外だった。
端正な顔を歪めるように強くおしぼりで顔を拭く。

それが面白くてつい笑ってしまう。

最近じゃ、こんなに笑うことなんてなかったから。

「なんで、焼き肉なんですか?」

「最近、外食が多くなって…ここ、昼間のランチで先月来たんですよ。結構美味しくて。値段も手頃だし。しかも、月イチでサービスdayがあって。アイスクリームがタダなんですよ!」

「そうなんですね。アイスクリームか…だんだん、美味しい時期ですからね。」

俺がそう言うと、櫻井さんは少し顔を赤くした。

「ん?」

「いや、えーと、その…可愛いなぁ…と…」

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