
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
「あ、いえ、すいません…なんか…」
仕事中なのにまた、同じことを考えて。
「あの…実は…別居を考えてまして…」
言いにくそうに、でも、どこが決意の宿った瞳で
櫻井さんは言った。
それで、一人暮らし、なんだ。
「え?別居…ですか…どうして…」
そこまで言って口を押さえた。
余計なことだ。俺が踏み込むことじゃない。
「会社から近いとか、駅から近いとか、もっと具体的に希望はありませんか?」
櫻井さんだけど、お客様だ。
きちんとやらなきゃ。
だけど…
なんで、別居なんだ?
櫻井さんのお相手の…なんて名前だっけな。
二人のウェディングパーティーに呼んでもらったのに全然、覚えてない。
俺たちは結婚式とか、パーティーとかやらなかったんだよな。
恥ずかしいし、お金もかかるしって。
しない変わりに二人で何かやろう!って話してたけど気かつけばずいぶん、時間がたった。
「今日って物件見に行ったり出来ますか?」
「あ、はい、もちろんです。お仕事大丈夫なんですか?」
「たいぶ、落ち着きました。それに、俺がいなくても松本がいるんで。」
「そう…ですか…じゃぁ、いくつかピックアップしてみますね。ちょっとお待ちください。」
いくつか候補を出して、櫻井さんの見たいところを絞ってもらった。
「じゃぁ、行きますか。」
と思ったが車が全て出払っていた。
「すいません…確認不足で…」
一昔前の二つ折り携帯電話なのか!ってくらい
頭を下げた。
カッコわるいところばかりだよ。
