
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
潤が手をつけなかったさばの味噌煮。
買ってきたやつ。
昨日は…コロッケだ。
お惣菜の。
どうせ、帰ってこないからと夕飯作りも適当になっていった。
服だって。
俺は特別、趣味もないから休みの日に外出することもほとんどない。
必要なものはネットで買えるし。
だから、服だって着れれば何でもいいかって。
仕事はスーツだし。
最後に洋服買ったのいつだろう。
そんなに俺、ダメ?
こんな格好じゃ、ダメ?
姿見に自分を写してみた。
「よれよれ…」
なんで?
こんなになったのは潤のせいじゃん。
帰ってこないんだもん。
テレビ見てたら眠くなっちゃうよ。
服、変えたら気づいてくれるの?
潤の好みの俺になればセックスしてくれるの?
「余計なことか…」
浮気してるの?って勇気を出して聞いたけど、
してない。とはっきり答えてはくれなかった。
俺じゃない、どんな人を見たら、抱きたいって
思うの?
女なのかな…
それとも、若い奴なのかな…
お皿にある潤の残したさばの味噌煮にシンクに流す。
水を流すと排水溝へ吸い込まれていく。
ご飯もお味噌汁も。全部。
「うっ…う…」
コックをさらに捻る。
勢いが増して水しぶきが飛ぶ。
声をあげて泣いた。
水の音で俺の泣き声が聞こえないように。
シンクに手をついて。
嗚咽するくらい泣いた。
浮気されてるかもしれない。
そんなことより
俺のこと、もう、愛していないのかもしれない。
だって、そういうことじゃん。
子供が欲しいわけじゃない。
そうやって言えば、セックスしてくれるかもって
思ったから。
潤、俺のこと愛してる?
涙が止まっても潤は書斎から出てこなかった。
