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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ

◆◆◆

「あれ?この間の…」

電車で会社へ戻る途中。
それほど混んでなかったが座ることは出来なかった。
新しく出来たマンションの見学会の日で。
多くのお客さんを招くことが出来た。
直帰でもよかったのだけれど、どうせ、帰っても一人だし報告書をまとめようと電車に乗った。

まだ、5月だけど気温は思ったより上がって。
暑さと昼食を食べ損ねたことで立ちくらみがした。

すぐ次の停車駅で降りて、ベンチに座って、顔を両手で覆った。

大きく深呼吸しようとしたら、頭上から声をかけられた。

見上げたら、見覚えのある顔。

「あれ?なんか顔色悪い…大丈夫?」
サッと背中を擦ってくれて、飲み物買ってきますと自販機へ向かった。

フワッと香水だろうか。
いい匂いがする。

「スポーツドリンク、飲めますか?」

ペットボトルを開けて、俺の肩を抱き、口元へペットボトルを寄せた。

ゆっくり、ゆっくり冷たいスポーツドリンクが喉を通っていく。

「あっ、垂れる…」

口の端からスポーツドリンクを溢したら、指で拭ってくれた。

「ごめっ!いきなり…」

こんなに顔を寄せられることが久しぶりですごく
恥ずかしい。

肩を抱かれている腕の中は、彼の匂いと優しさで
とても居心地が良くて。

「いえ…ありがと…ございます…」

恥ずかしいのは彼も同じなんだろう。

「いえ、こちらこそ。何がだ?!あ、もっと、飲む?」

と、早口になった。

赤くなってしどろもどろになったのが可笑しくて。

「ウフフフ…」

思わず、肩を揺らして笑ってしまった。

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