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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


「…好き…だよ?」

「なんで、疑問系?」

すぐに、真っ直ぐに、好きだ、と言えない。

もう、お腹がいっぱいなんだ。

俺は。

「そーいう、お前は?」

「うち?雅紀とはさ、形だけだから。雅紀はさ、幼なじみなんだけど。腐れ縁だよ。ただ、それだけ。」

「へー。」

突っ込んで聞いていいのか、わからない。

「へーって。冷たっ!」

「なんだよ?何?悩んでの?」

「悩むつーか…愛されてないんだなって毎日、思うわけよ。それって結構しんどいなって…」

櫻井が結婚したのは一年前。
幼なじみと付き合っているのは聞いていた。
イケメンだし、真面目で爽やかで。
なにより、仕事も出来る
櫻井が結婚するとなった時。
会社の女子も男子もざわついた。
最後の砦が…って。
翔ロスだ…って。

「愛されてない?」

「結婚したら、何か変わるかなって期待してた。ドキドキしたり…でも、何も…いつまでも俺達は幼なじみなんだなって。」

「どうなりたかったの?」

そう聞くと、櫻井は首を左右に振った。

「分からないんだ。今の俺達に何が足りなくて、俺が何を望んでるのか。」

そして、そんなことを思う俺に雅紀は気がついていると。

だから、ギクシャクしていて、二人でいても
息が詰まると。

「うちも…なんか、噛み合わないんだよな。聞きたくないこと、見たくない顔ばっかり…」

「見たくない顔?」

「俺を責めるような顔するときあるんだよ…」

いつも、そう。
何か言いたげに、俺を見つめて。
俺の機嫌を図ろうとする。

「家に帰るのが怖い…」

櫻井の言葉。



どうしてこんな気持ちになったんだろう。


帰ってきて、玄関のドアを開けるのが
一番、辛い。

このドアを開けたら、俺は…

「…ただいま…」





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