
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
何が、不満なのか、ここ最近じゃわからない。
そもそも、なんでこんな距離を保つようになったのかも思い出せない。
話しかけられるたびに。
名前を呼ばれるたびに。
見つめられるたびに。
重くて、苦しくて。
声を出そうにも、手を出そうにも
体が強ばってしまうんだ。
今日も遅くなると伝えてあるから特に気にすること
もない。
酒の席について、乾杯をして。
いい感じに盛り上がってきて。
だけど、この店は出なきゃならなくて。
二次会の話が出た。
いやいや。
明日もお仕事ですよ?
「俺は帰るわ!」
「俺も…」
櫻井とみんなとは反対方向へ足を進めた。
「はぁー。」
「何?飲みすぎたの?」
「嫌。別に…」
帰りたくないなって思ってるけど、
そんなこと口に出せない。
携帯を見ていた櫻井は
「もう少し、時間ある?もう一杯、付き合えよ。」
次の日もあるからと、いつもは解散になるのに、
どうしたんだろう。
「あぁ、いいけど。」
少し歩いて、駅前に並ぶ立ち飲み屋に入った。
「ここ、結構、旨いんだよ。」
櫻井が立ち飲み…
あまり、想像出来ない。
「彼が好きなの?こういう感じ。」
彼、とは、櫻井のパートナーのことで。
うちも櫻井のとこも夫婦別姓にしていて。
「彼?」
「えっ?あ、うん。パートナー。」
「あぁ…、雅紀か…」
溜め息のような。
何か、その彼、雅紀のことで悩んでいるというのが
すぐにわかった。
「お前、結構、顔に出るのな。」
グラスに入った日本酒をクッと煽った櫻井。
「松本はさ、今でもパートナーさんが一番好き?」
思い詰めたように真っ直ぐに俺を見て問いかけてきた。
