
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
朝から落ち着かない。
だって、今日…
だって、今夜…
浮かれていた俺。
時計ばかり気にして。
後輩の中島の質問に、きちんと確認しないで答えてしまった。
回りが帰宅に備えてソワソワしてきた。
問題は起きた。
「中島っ!なんだこれ!」
部長がすごい剣幕で中島に詰め寄っている。
「なにがですか?」
「ここだよ!数字、間違えてるぞ!確認したのかよ!」
「はい。え…俺、OKもらって…」
中島が俺を見た。
え…?
俺…?
確認って…
「あ…」
慌てて中島が手にしてる資料を見る。
それは、明日の折り込みチラシで新しいマンションの価格が一桁間違って刷り上がっていた。
今日の夜のことばかり考えていて
最終の確認だと思わなかった。
だから、数字の確認なんてしなかった。
「どうすんだよっ!間に合わないぞ!」
「俺、直接頼んできます。」
中島が印刷工場へ行くという。
「俺も行くよ!」
俺と中島は印刷工場へ向かった。
でも、頼んでも、他からの仕事があるということで再度印刷してもらうことは出来なくて。
急遽、シールを買い、ひとまず一万枚に手作業で貼ることになってしまった。
「本当にごめん。中島。」
他のみんなも手伝ってくれたけど、時計が0時を過ぎる前に帰ってもらった。
「俺のミスです。先輩、悪くないです。でも、今日用事あったんじゃないですか?」
「あ…」
「ずっと、時計見てましたよね?それに、なんか今日は雰囲気、違いましたから。」
携帯を見たけど、潤からは何も連絡は入ってなかった。
怒ってるかな…
「ちょっと、悪い!」
携帯の通話ボタンを押す。
ここ数日、俺の頭のなかはそればっかりで。
誰を見ても、何をしててもそればっかりで。
みんな、好きな人と肌を触れ合っている。
みんな、好きな人を抱き締めている。
みんな。
みんな。
「出ない…」
潤には繋がらない。
仕事、終わらないのかな…
それとも、何かあったのかな…
仕事でミスをしたこと、それの修正に時間がかかることをメールした。
でも、携帯は鳴らなかった。
