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僕は君を連れてゆく

第28章 ハンプ


外は雨が降りだしていた。

「うわ、降ってきた。乗ってけよ。」

結局、さっきの言葉はどういう意味なのかわからないまま助手席に滑り込んだ。

たいした会話もないまま、交番に着いた。

「戸締まりしてこいよ、送ってやる。」

「おぅ。」

俺は鞄や上着を持って鍵をかけた。

車に乗ろうとして振り向いたら運転席の二宮と
目があった。

何かを言いたそうに、口をキュッと結んで。

せっかく、再会したのが今日だなんて…

「じゃぁ、頼むよ。」

二宮がゆっくりアクセルを踏んだ。

フロントガラスに打ち付ける雨の音がだんだん
強くなる。

「お前、どこ住んでんの?」

なんとなく気まずくて話しかけた。

が、返事がない。

雨の音で聞こえなかったかな?と運転席を見た。

和也は泣いていた。

声を殺して。

俺は何か声をかけてやらなきゃと言葉を探したけれどどれも、合ってないような気がして。

雨の音はさらに強くなった。

ワイパーが激しく動くのをただ見ていた。

小さい町だから、時間はあっという間に過ぎていく。

もう一度、二宮を盗み見るともう涙は乾いていて
頬に涙の後が。

車は路肩に止まった。

「なぁ…」

「ん?」

「お前の家、どこ?」

「……」

「……」

二人で顔を見合わせる。

泣いたあとだからか、赤い目。
頬に残る涙のあと。

「かず…」

俺はかずを抱き寄せた。

あの日みたいに。

あの日も声を殺して泣いた。

溢れくる涙はとめどなくて。

俺の胸の中で震えるかずをただ、抱き締めた。

泣きたくなかったけど、悔しくて俺も泣いた。

何か言葉をかけてやりたかったのに、今日と
同じで言葉がみつからなかったんだ。






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