
僕は君を連れてゆく
第28章 ハンプ
「死後硬直の度合いから見て昨晩の11時から今日の2時までの間かな…」
「病死ということでいいんだな?」
「あぁ…肝硬変の末期だった。むくみも酷くて歩くのも大変そうだった。昨日だって…」
唇を噛む二宮。
「なぁ、なんで病院に連れていかないんだよ?ここに一人だなんて明らかに無理だろ…」
俺をここに連れてきてくれた人は常田さんの家に
野菜を届けに来たという人で今居さんという人だった。
今居さんにはお礼を言って帰ってもらった。
二宮からの話によると、この町はほとんどが独居の老人で、老人同士でお互いを支えあっているそうだ。
この常田さんもその一人。
「簡単に言うなよ。来たら分かっただろ?病院に行きたがる人なんてほとんどいないんだよ。みんなこの町で、自分の家でお迎えを待ってるんだ。」
「でも、この部屋、すげぇ臭いするぞ。ここに一人で、って。」
「肝臓の働きが悪くなると代謝が出来なくなって血液中のアンモニアの値が上がるんだ。そうするとボケのような症状が出るんだ。だから、着替えをめんどくさくなったり、片付けが出来なくなったり…これも病気のせいだ…」
二宮は医者になっていたのか。
変わらない黒髪。
シャープな顎のライン。
丸い手。
あの頃と何も変わっていない。
「病死ということで処理する」
二宮は俺を見て鼻で笑った。
「なんだよ?」
「お前はこっちに来たばかりなんだもんな、思い入れなんてないもんな。」
「どういう意味だよ。」
「そのままだよ。」
昔から頭がいいから言葉数が少なくて感情もあまり表に出さない奴だった。
「分かるように言ってくれよ!」
「言ったって仕方ないよ。」
二宮は荷物をまとめて、帰ろうと言った。
