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僕は君を連れてゆく

第28章 ハンプ

◇M said


交番の机に「巡回中」の看板を立てた。

自転車にまたがりいつもの道を行く。

だいぶ、冷えるなぁと息を吐いてみる。
まだ、白くならない吐く息にこれからますます寒くなるんだ、と肩をすくめた。

柿の木の下でおしゃべりしてる二人組のおばあちゃん。

「お巡りさん!食べる?」

俺は自転車を降りて二人に近づくとみかんを手に持っていた。

「あれ?柿じゃないの?」

「これはカラスのご飯なんだよ。」

「もったいないじゃん!なんで?」

「全部、食べちまったらこっちの木、ヤラレちゃうんだよ。」

おばあちゃんが指を差した方にはもう一本の柿の木があって、そっちもたくさん実をつけてる。

「そうなんだね、じゃぁ、食べようかな。」

「今日は先生が見ないね。」

「そうだね。この時間なら吉野さんとこに来るのにね。」

「先生?」

「あぁ、お巡りさんはまだ会ってないの?診療所の二宮先生。だいたい午後はみんなの家を回ってくれんだけどね…」

「二宮先生…」

懐かしい名前だと思った。

「若いのにね…女の子みたいな顔してるよねぇ」

「お巡りさんも診てもらうといいよ」

「あ、うん、そうだね。」

この町の交番勤務になったのは3ヶ月前。
辞令が出て引き継ぎをして…
引っ越しの準備をして…

何もない町に正直、肩を落とした。

大きな事件を解決して、名をあげて警視庁勤務に…

まぁ、普通の大学を出た俺には無理な話だけど。

町に続く橋を渡って着いたそこは時間流れが東京の1/3くらいに感じる。

バスもない、コンビニもない。

「カラスが鳴いたらかえーろう」

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