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僕は君を連れてゆく

第28章 ハンプ


お前とは変わらなかった。

朝、俺の母さんが帰ってくるのを見ていても、お前は何も聞いてこなかった。

六年生になる頃には、母さんはほぼ毎日、夜出かけていた。
水商売をしていたらしい。
父さんは俺が気がつく頃には家に帰ってこなくなって、生活費を稼ぐために母さんは夜、働いていた。

小学校の卒業式。

俺の母さんは式に出てくれなかった。

だけど、新しい服は買ってくれていて嬉しくてそれに腕を通した…
いつも通り家を出たら右手を母親、左手は父親と手をつないで歩くお前がいた。

卒業式に親がいないのは俺の家だけだった。

校門で卒業式と書かれた看板の横でみんな写真を撮っていた。

お前が俺と写真を撮りたいと言ってくれて並んで撮ってもらった。
俺が、最後に家族で写真を撮ったのはいつだろう。

でも、母さんは俺のために働いてくれてるんだから…

帰ろうとして下駄箱を見た。

みんなの靴はキラキラと黒く輝いていた。

俺だけいつもの運動靴だった。

恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて…

俺は家まで走って帰った。

誰にも見られたくなくて。

帰ったら母さんはいなくて…

いつものように1,000円札が一枚、父さんが使っていた灰皿の下に置いてあった。


俺とお前は違う。

初めて…
お前を羨ましいと思った。

友達もたくさんいて、父さんがいて、母さんがいて。
新しい服があって、新しい靴があって。

一人で布団に潜って泣いた。

初めて…
お前を失いたくないと思った。

俺に笑顔を向けてくれるのはお前しかいないから。

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