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第10章 暗闇の底に

診察や手当てを終えて検査を待つ間に
アイルはトイレに行きたいと部屋を出て
そのまま戻って来ないと言うのだ

既に病院中を探し回っているが
みつからないと言う


なんてことだ…


アイル、あんな体の状態で…一体なぜ?

どこへ…?



女性刑事がオレたちに頭を下げる
配慮と注意が足りなかった、と



そんなことは……どうでも良い

今は…そんなこと…


オレもソウタさんも
体が勝手に動いていた

夢中で病院中を駆け回る
病棟から病棟
非常階段、団らんスペース…
どこにもいない


オレは不意に外の空を見上げた
今にも沈みそうな真っ赤な夕日…

まさか…


一人でに足が外に向かう

現場となった河原から
ずっと延びた河川の先に病院はある

オレは河川沿いの道をひたすらまっすぐ進む

すでに辺りの外灯はついていて
薄暗さを増していく

日が…沈む…

『!?…』

その時…

堤防から見下ろした川…
外灯と沈む夕日にかすかに照らされた…

人?… … …

遠すぎる…目をこらして見る。木か…?

いや…動いて…川に進んで行く

人だ

ゆっくり…ゆっくりと

確かめる為にオレは河川の堤防を降りて近づく

アイルでなくとも
こんな時間…こんな所に人が
…川に入っているなんておかしい


『アイルーーーっ!?』

『…』

大声で呼んでみるが応答はない


『アイル!?…アイルなのかっ!?』

『…』

オレの方にその人が、かすかに振り向く
外灯にわずかに照らされたのは…

『…アイルっっ!!!』


オレはそのまま後を追って川へ進んだ



『アイル!っ…待って!!!待ってくれっ!!!』



アイルは聞こえているのかいないのか
もう振り向きはせず前に進んで行く
水遊びでもしてるように
なぜか水面をパシャパシャと両手で叩きながら



見つけた

急がないと…!



オレは必死に水をかき分けて進んだ

水の抵抗が足を引っ張って邪魔をする

もどかしい



早く…!もっと早く!…あと…少し
あと…もう…少し

届いた!!

…オレの両手がアイルを捉える

息の上がり切った呼吸を整えて

『ハァ…ハァ…。ハ…アイル~?
なにしてんだよ?…こんなとこで』

あえていつものような口調で話す
オレ自身をも落ち着かせるかのように

アイルはかすかに…微笑む

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