
ビタミン剤
第7章 人魚のナミダ
マンションに隣接する公園
日よけのあるベンチで雨宿りをしても
寒さと激しい頭痛が襲ってくる。
「俺、なにやってんだろ…帰らなきゃ。」
携帯を鳴らしてたとえ翔さんがでてくれても、
いったいなにをどう言えばいいのか
うまく言葉にできない。
きっと名前を呼ぶことくらい。
「逢いたいよ……翔…さん。」
弱まる気配のない土砂降りの中を道路まで
出てもう一度マンションを見上げてから
背中を向けた。
誰もいない深夜の歩道。
まるでぬかるみの中を歩いてるかのような
重い足どりで歩き始める。
ヘッドライトの眩しい灯り急停止する車。
運転席側の扉が勢いよく開いて
土砂降りの雨の中、
誰かが俺の名前を呼んでる。
耳触りのいい声はよく知ってる声。
「松潤、松潤だろ!
なにやってんの。
こんな時間にこんなとこで!」
「…翔…さ…ん。」
「土砂降りの中で傘も持たずに
なにやってんのだよっ!
松潤っ、おい、松潤?!」
