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キラキラ

第30章 hungry 2


「フラれても?」

「まだ、直接大野に何か言われた訳じゃねーんだろ」

「…………」

「自分で勝手に試合終了すんなよ」

「でも……」

「逆転サヨナラの可能性を捨てるにゃ、はえーぞ…?」

「…………」


松潤が言ってることはわかる。
でも、綺麗事だと思ってしまう。


だって、ここまで連絡ないってことは、俺のことなんかどーでもいいってことだろ?


我ながら、ひねくれてるとは思うけど、もうそんな風にしか思えなくなっていた。


「もーいーよ……」


ガバッと布団を被って丸くなった。


キリキリキリキリ……

胃が痛い。


俺は、暗闇のなかで胎児のように丸くなった。


もーダメかな……。
あきらめなきゃダメなんだろうな。
いっそ、大野さん早く卒業してくんねーかな……。


ぐるぐる考えて目を閉じる。


「はい」


突如、布団の中に潜っている耳に、くぐもった松潤の応答する声が聞こえた。


誰か来たんだろうか。


ベッドは譲らねぇぞ。
しんどいやつは帰れ。


ぶつぶつ思っていたら、やにわに体を揺さぶられた。


「櫻井」


松潤の声だ。


ベッド変われっての?
ぜってーやだ。
俺、ここから今日はでねぇもん。

ガン無視して、俺はひたすら丸くなってた。


「おい」

「……」

「櫻井って」

「……しんどいからもう少し」

「……だとよ」


松潤の言葉に、


「じゃあ……ちょっとだけここにいてもいいですか」


!!


柔らかな第三者の声。

全身が強ばった。


どうして……どうして。


俺は丸くなった体のまま硬直してしまった。


聞きたくて聞きたくて。
この声がスマホから流れるのを心待ちにしていた。


「櫻井……大丈夫?」



大野さん。

その声が俺の名を呼んでくれるのを俺は待ってたんです。

……ずっと。


「すまん、大野。ちょっと留守番しててくれ。職員室行ってくる」


「あ……はい。わかりました」


松潤と大野さんのやりとりが聞こえる。

職員室に行くという松潤。

あれはきっと嘘で。

気をきかしてくれたんだと、思った。
松潤が作ってくれた最後のチャンス。


ここできちんと話をしなくちゃ、一生後悔するな……俺。


俺は、布団からゆっくり起き上がった。



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