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キラキラ

第30章 hungry 2


ところが、現実はそう甘くなかった。

決勝の相手は、前年度優勝校。
うち同様、スポーツに力をいれてる私立校だ。

最初は、得点もとってとられてのシーソーゲームであったが。

二宮のパスミスを皮切りに、流れが向こうにかたむいた。

必死で追いかけるが、一度離された点差はなかなか縮まらない。

だめ押しのように3ポイントを続けざまに決められ、思わず舌打ちしてしまう。


「もう一本!」

「先輩!いけますよー!」


悲鳴のような絶叫まじりの応援を背にコートを走り回るうちに、二宮の異変に気づいた。

完全に足元がおぼつかなくなってる。

雅紀に目配せすると、雅紀は頷いたようだった。

それからすぐ、二宮が、雅紀とすれ違い様に、何かを囁いたのを確認した。

そのあと、二宮の申し出で、彼はさがり、かわりに二年生の補欠が入ったが、時すでに遅し。

大量の点差を覆せることもなく。
相手校にコテンパンに料理されて……俺らの決勝戦は終わった。





「俺……帰るけど」


ボストンバッグを抱えて、雅紀に声をかける。

試合会場となった体育館の、廊下の端で、反省会という名のミーティングを終え、解散となったものの、項垂れたまま立ち上がろうとしない二宮。

空気を察した他の部員たちは、俺たちに挨拶して帰って行く。


人も少なくなり、閑散としてきたフロア。
そんな廊下の片隅は、さらに人もいなくて物寂しく、数時間前の熱気が、嘘のようだった。

負けた責任を感じているのなら、それは違う、と、松岡は言っていた。
今の俺たちの実力だ、と雅紀も纏めていた。

だが、二宮が本調子だったならば…という、仮定の話がどうしてもみんなの頭をよぎる。


「いいよ……帰って。翔ちゃん」


二宮の横に座った雅紀が顔をあげて、手を振った。

変に責任を感じてる二宮のことも気にはなるけれど、大野さんと会う約束をしている俺は、結構急いでいて。


「うん……じゃあ、お先」


雅紀に全てを託して、俺は手をあげた。
それに、二宮のことは、雅紀に任せたほうがいい気もした。


曲がり角で、ふと後ろを振り返る。


雅紀が、二宮の肩を抱き、彼の頭を自分に寄り添わせる後ろ姿を確認した。


……やっぱ、あいつらできてんじゃね?


負けた悔しさも忘れ、ニヤリとしてしまう顔を我慢しながら、俺は今度こそ出口に向かった。

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