
キラキラ
第26章 10カゾエテ ~Count 10~
長瀬さんとは、この寮全体を管理している人。
年齢がまだ若いせいか、生徒たちはみな、長瀬さんを近所の兄貴感覚で頼りにしている。
背が高く、大きな瞳に髭。
見た目だけで、いかついのに、常に黒やら金やらの模様がついたジャージを着てて、それがまた異常に似合うから、大抵の新入生は、最初はビビって話もできない。
茂子さんは、いわゆる食堂のおばちゃん。
厨房には、他も何人かいるが、生徒の健康状態をチェックしながら、その場を取り仕切ってるのは茂子さんだ。
小柄な体に白い割烹着をまとい、三角巾の下から優しい丸い目で、毎日一人一人の顔を見て元気に声をかけてくれる。
あの不思議なおばちゃんパワーを前に、生徒のなかには、茂子さんに悩みを相談したりしているものもあるらしい。
長瀬さんはスルーのくせして、茂子さんに反応するあたり、さすがの大野も、おばちゃんは苦手のようだ。
だって、あのパワーはすげーもんな。
こちらを睨んでる大野の瞳を、負けじとうけとめて、翔はもう一度、
「手当て、しよう?」
といった。
暫く黙っていた大野は、あきらめたように吐息をついて、はいはい、というように頷いた。
「………自分でする」
「肘なんてできるの?相葉くんにやってもらいなよ?」
なおも食い下がる翔を、大野はめんどくさそうにあしらって歩き出した。
俺は、大丈夫じゃね?と声をかける。
大野と同室なのは、相葉という、これまた元気な男で。
相手を自分のペースに巻き込んでしまうその明るさは、大野にとってはうざいかもしれないが、逆にいえば、相葉くらいしか、あの大野の相手はできないとさえ思う。
あいつなら大騒ぎして、部屋の備品の救急箱をもって、大野を追いかけ回してくれるだろうと思うけどな。
まったく、部屋割りの人選もよく考えられている。
「………そだね」
翔は、遠ざかる大野の後ろ姿を見つめた。
とりあえず、あとで相葉くんにラインしとこ、と
呟いてる翔の人のよさに、あきれるのを通り越して笑ってしまった。
