
キラキラ
第37章 寵愛一身
「あの……松本先輩」
可愛らしい声が松本の名を呼ぶのが聞こえた。
…………!
その瞬間、俺は、咄嗟に近くの本棚に隠れた。
見るのは耐えれないと思った。
「私、K高一年の……と、いいます。あの……」
本棚一つ隔てた向こうは、容赦なく告白タイムが始まる。
俺は、ドキドキしながらそれを聞いていた。
松本はどんな顔をしてるのだろうか。
どんな言葉を……
「悪いけど」
はっきりした声が響いた。
「俺、付き合ってるやついるから」
…………。
俺の願い通りの返事をしてる松本に、心底ホッとする。
「そ……なんですね……」
がっかりした子の声。
「………ごめんな」
「いえ……あの……じゃあ、お願いします。これだけ受け取ってもらえませんか」
カサカサと包み紙の音がする。
「作ったんです。クッキー……」
俺は、ドキドキしながらやりとりを聞き続ける。
松本は……受けとるの?
「お願いします」
「……悪い。受け取れない」
「……」
「ごめんな」
「……いいえ」
すみませんでした!といって、その子が走り去る足音がした。
それと同時に、松本の小さなため息も聞こえた。
俺は、どんな顔をして松本の前に出て行けばいいのか分からず、しばらく根が生えたようにそこから動くことができなかった。
ちゃんと断ってくれた。
それは、結果的に喜ばしいことなんだけど……
なんだかモヤモヤしてしょうがなかった。
