
キラキラ
第5章 hungry
その時、カラリと、扉が開く音とともに、「失礼します……」と遠慮がちな声がして、俺たちは同時に振り返った。
今、俺が一番心を動かされてる声。
柔らかい、癒されるトーンの声。
大野さんだ。
……え、でも、なんで?今、授業中のはず。
腰かけてたベッドから、ちょっと身を乗り出して入り口をみた。
一歩、二歩と静かに保健室内に入ってきた大野さんは、「あれ?櫻井?」と普通にびっくりしてる。
でも、俺の方が何百倍もびっくりしてた。
「……大野さん、……なにそれ」
大野さんはハンカチをあてた右手を、左手でぎゅっとつかみながらたたずんでる。
そのハンカチは薄い水色をしてるからか赤い色が際立つ。
ハンカチはあちこち血に染まっていた。
「あ?これ?」
俺の問いに、大野さんはふわっと笑って「……やっちゃった」って、言った。
俺は、卒倒しそうだった。
ふわっと笑ってる場合じゃねーし!
手のひらの状態と、大野さんのテンションが全くかみあってない!
「……見せてみろ」
眉をひそめた松潤が、つかつかと歩みより、大野さんのハンカチをそっととった。
「ずっとおさえてたから、だいぶ血はとまったんです……。絆創膏もらおうと思って」
「…絆創膏一枚っていうレベルの傷じゃねーけどな…………ん、まあ病院行くほどじゃないか」
松潤は、大野さんの血だらけの手のひらを、じーっと凝視して呟いた。
「……何したらこうなったんだ?」
消毒薬やら、包帯やら用意しながら、松潤が訪ねると、大野さんは、カッコ悪い話なんですけど……と、てくてく歩いて、松潤の真向かいの丸いすに座った。
俺は、教室に帰る気になれず、ベッドに座ったまま、大野さんの手当てを見守ることにした。
「実験中に、ビーカー落っことしちゃって。片付けてるときに、うっかり」
「うっかり、ザックリいったわけだ」
「はい」
へへっと笑う大野さん。
笑いごとじゃないでしょ!
心で突っ込みながら、俺は最近薄々感じてたことを再確認した。
この人、超綺麗だけど、超天然だ……。
「……ちょっとしみるぞ」
松潤が、消毒薬で、血だらけの手と傷口のまわりを綺麗に手早く拭き取ってゆく。
「………てっ…」
大野さんが、顔をしかめて一瞬泣きそうな顔になった。
そんな顔みたことなかった俺は、不謹慎だけど、ドキリとした。
