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キラキラ

第31章 イチオクノ愛


「驚いた……どうやって、にのちゃんのもとに戻った?」


目の前の男は、するりと仮面をはずすように、俺に似せた気配をなくした。

すると、姿かたちは俺そのものだけど、妙になつっこい笑みを浮かべる、ただの男になった。
心なしか声も少し変わった気もする。


ちくしょう、やっぱ乗っ取りじゃん!
ドッペルゲンガーじゃん!

……てめー、俺をもとにもどせ!!


ガウッと吠えた。


「……ふ……喋れないんだったね」


男は、くすっと笑って、髪をかきあげた。
その髪が一瞬金髪にみえて、俺は瞬きを繰り返す。
着てる服も、緑色のヒラヒラしたへんてこな衣装にかわりかけ……あれ、と思ったつぎの瞬間にはもとの姿に戻ってた。


……なんだ……?


俺はコクっと息をのんだ。

……こんな非現実なこと、普通は信じがたいけれど、この身にふりかかった現実こそが真実。

自慢じゃないが適応力抜群の俺は、よよよ、と泣くような玉じゃねーぞ。


やい!おまえは誰だ!


もう一度吠えようと腹に力をいれかけて。


「………?」


踏ん張ってた足に力が入らずに、俺は、かはっと息を吐いた。


なんだ……?


目の前がくるくるまわりだす。
立っている地面が波打ち、平衡感覚が狂いだした。


「ようやく効いてきたね……やっぱあなたってすごい体力」


男はあきれるように笑んだ。


モーレツに眠たくなってきて、まぶたが下がる。
ゆらゆらと目の前がゆれて、頭がぼーっとしてきた。


なに……なにかしたのか?


「さっき、松潤があなたにあげてた水に、ちょっと細工をね。すぐに効き目がでたらばれるからヒヤヒヤだったよ」


くそっ…………この偽物から、直接もらうものじゃなかったから、油断した……!


俺は必死で体を起こすが、頭のなかはどんどん霞がかかってゆくように、ぼんやりしてきた。


やばい……やばい……!


カンカンカンと、踏み切りの警告音のようなものが頭のなかに鳴り響く。


「もうちょい遊ばせてね?」


偽物が俺を抱き上げたのが分かった。
分かったけど、もう、体のどこにも力が入らなかった。


くそっ……くそうっ!!!


にの……!!


叫びは、黒い闇に遮られ。
俺は意識を失った。

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